第5話 共同生活の開始
「今日からここが君の住むところだよ。」
そう言うと孝明はアイリーを部屋へ招きいれる。
「ここが、今日から私が住むところ・・・。」
アイリーは部屋中を見渡す。部屋は元々物が少なく整理整頓も日頃からしていたので綺麗なものであった。
人間でないとはいえ女の子を招き入れるのに部屋が汚かったら恥ずかしいと思うので片付けを普段からやっておいてよかったと思う孝明であった。
彼女である
返事はいつも『今日は気分じゃないから行かない』であった。もちろん逆に彼女に家に行ったことはない。
「孝明、私は何をすればいい?ずっと家にいるだけなのよくないと思う。」
「え・・・?えっと・・・そうだなあ。」
たしかに家にいるだけでニートのような生活を送り続けるというもの気まずく感じる人もいるだろう。
特に平日は孝明は学校やバイトで家にいないことが多く、留守にして彼女をずっと家で待たせてしまうことになる。
そうなると退屈だろうし(退屈という概念が彼女にあるかどうかは分からないが)孝明は何をしてもらおうか考え提案する。
「やっぱり家事とかかな?アイリー、洗濯物とか掃除はできる?」
「うん、頑張る。今からやればいい?」
「ううん、今日はもういいよ。朝一でやっちゃったし。」
孝明は普段は替えの服がそんなにあった訳ではないので溜め込まず洗濯は毎日のようにやっていたが、平日は学校やバイトで疲れていることが多いため掃除は毎週土日にやっていた。
今日は日曜だったので掃除をすでに終えていたようだ。
「あ、そろそろ食事の時間かな。何食べようか。」
そう孝明がキッチンへ向かおうとするとアイリーが声をかける。
「孝明、私作ってみたい。だめ?」
孝明はアイリーの提案に驚いた顔を見せる。
「え?料理・・・できるの?」
「うん。作ったことないけど、ネットから情報取り入れてやってみるから。」
ネットからというのはおそらくパソコンやスマホを使ってではなく彼女の中に内蔵されている回線を使って得るということなのだろう。
孝明は彼女からの提案を嬉しく思い頼むことにした。
「じゃあお願いしようかな。冷蔵庫にある程度材料があるから、それで何かおかず作ってもらえるかな?あ、ご飯はいいよ。今朝炊いて冷凍保存しておいたのを食べるから。」
「うん、頑張る。ちょっと待っててね。」
そう言うとアイリーはキッチンへと足を運び準備を始める。孝明は向かいの部屋でヨーチューブで動画でも見ながら待つことにした。
(誰かが作ってくれるご飯なんていつぶりだろう)
最後に食べたのは高校時代に母の手料理くらいかもしれないと孝明は思いふける。
もちろん外食をすることもあるのでそういうのも作ってもらった料理といえばそうなのだが、そういうのは作ってもらったという感じはしない。
「孝明、おまたせ。」
そう言うとアイリーは料理をテーブルの上に皿に盛られた茶色くこげた奇妙な塊を置く。そしてもう一つ皿が置かれる。
その上には生の人参がそのまま乗せられていた。
「え~と・・・。これは一体何の料理かな?。」
孝明は聞くのが怖いと思いつつも恐る恐るアイリーに質問する。
「豚肉と塩があったから、お肉一つまみと塩一袋をフライパンで炒めてみたの。」
「うん・・・。それ完全に逆だね。お肉の方が調味料みたいになっちゃってるよ・・・。それでこっちは・・・?」
誰がどう見ても皿に人参がそのまま乗せられているようにしか見えないが、孝明は念のため聞いてみることにした。
「うん。人参は生で食べられるって情報得たからそのままの方が美味しいと思って出してみたの。」
「まあ、間違ってはないけど・・・。生で切ったりもせず食べるのは多分トマトくらいじゃないかな・・・?」
唯一まともだったのは孝明があらかじめ炊いておいたご飯を解凍したものだけであった。孝明は良心が痛みつつもアイリーに伝えようと思うと先にアイリーが話出す。
「私、何か間違ってた?・・・ごめんなさい。ネット回線で情報収集して整理して作ってみたんだけど・・・。私、味覚とかないから分からなくて。」
味が分かる分からない以前の問題だと思うのだが・・・。
今はググれば簡単に料理のレシピとかが分かるハズなのだが一体どこの情報を得てどうまとめたらこのように作ろうと考えつくのだろう・・・と孝明は思ったが、口には出さないでおいた。
彼女は彼女なりに一生懸命作ってくれたのだ。批判的な発言はするべきではないと思った。
彼女は相変わらず無表情であったが、うつむいており何やら申し訳ないと思っているのが伝わってきた。
「じゃあ僕が作るからそれを真似てみるってのはどうかな?」
孝明はそう言うとアイリーは顔を上げ答える。
「いいの?ごめんなさい、孝明。私、自分から作るって言ったのに結局孝明にやらせて・・・。」
「いいよいいよ。初めてなんだし仕方ないって。それじゃあ、とりあえず米の炊き方からかなあ。今日はともかく今後作ってもらうことが一番多いだろうし。」
孝明は人に何か教えるのは割と好きであった上、彼女が一生懸命自分のために何かしようとしてくれてるのが嬉しく本心から悪い気はしてなかった。
彼も料理はそこまで得意という訳ではなかったが、自炊はしていたのでそれなりに食べられる物は作れているつもりであった。
(なんかかわいい妹ができたみたいだなあ)
孝明はこれから色々大変だろうと思いつつも彼女との共同生活を楽しみにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます