第4話 命名アイリー
「よし、終わったぞ。そこまでひどい傷ではなかったから時間もかからずに済んだよ。」
「ありがとう、博士。」
少女はお礼を言うと、孝明は気になっていたことを成瀬に聞くことにした。
「そういえば最初あった時、この子のこと『7038番』とか言ってましたけど、あれって・・・?」
「ああ、この子の製造番号・・・シリアルナンバーってやつだよ。本当はもっと長い数字羅列だが、覚えられないし長くて言えたもんじゃないから最初の頭の数値を呼んでいるんだよ。」
「なるほど。じゃあこの子の名前とかはないんですか?」
「名前など考える意味なかったからね。今までも同じようなアンドロイドを作ってきたが、どれもうまくいかなくて破棄してきたからな。」
「じゃあ、今はこの子以外いないんですか?」
「そんな余裕ないんだよ。私の他に社員がいる訳でもないし予算だって限りがある。私も歳だからねえ。おそらくこいつがラストチャンスになるだろう。」
たしかにアンドロイドの開発などお金や時間もそうとうかかるだろうし、なんとかこの子を完璧にしあげようとしてるのが想像できた。
「改良施したばかりだからもう少しデータが欲しいからモニタリングが必要になってくるな。日常生活を送って何も問題がないか、家族とのコミュニケーションで最低限必要なものとか・・・。」
成瀬がそう呟くと孝明が乗り出し提案する。
「あの・・・。僕がその子と一緒に暮らしてみたいんですけど、ダメですか?」
孝明の発言に成瀬は驚愕する。
「いや・・・何を言っているんだ、君は!?」
「あの・・・いえ・・・。その子誰かと暮らしてどうなのかテストしたいんですよね?だったら第三者の意見とかの方がいいんじゃないかなあって・・・。」
「まあそれはそうだが・・・。しかしこの子を他人に委ねるのは・・・。」
孝明の意見に戸惑う成瀬。その時7038号と称される銀髪の少女は席を立ち発言する。
「博士。私、この人の家行ってみる。ううん、行ってみたい。」
「な・・・!?」
まさか自分の作ったアンドロイドが自分の意見を言うとは夢にも思わず成瀬は戸惑った。
一体どういうつもりで孝明の元へ行くなどと言い出したのか。
成瀬は自分がどうするべきか困惑した。
たしかに将来一般家庭で一緒に生活してもらえるよう作るつもりなので自分より他者に実際に一緒に暮らしてもらった方がいいかもしれない。
しかし本当に彼女を見ず知らずの他人に手渡してもいいものか悩んだ。
「分かった。ただし期間は2カ月だ。2カ月経ったら私の元へ帰ってくるんだ。7038号。」
「うん、ありがとう博士。」
少女がそう言うと成瀬は孝明に向かって歩みだす。
「じゃあよろしく頼んだぞ少年。」
「はい。あ、ところで私生活の様子を何か書いたものを送ったりした方がいいんですかね?レポートとか。」
「ああ。それはこの子の視覚情報や受けた音声などのデータが私のパソコンに送られてくるようになってるから必要ないよ。ただ、何かトラブルがあったら私に連絡してほしい。」
「分かりました。じゃあ連絡先の交換をしましょう。」
孝明はそれを聞いて安堵した。
大学とバイトで忙しい中報告書まで書かないといけないとなると大変だからである。
二人が話終えると少女は孝明に向かって歩みだす。
「そういう訳でよろしくね。えーと・・・。」
「ああ、そういえば名前まだ言ってなかったね。僕は孝明。藤井孝明だよ。」
「うん、孝明。よろしく。」
かわいい女の子にいきなり下の名前で呼び捨てにされて照れくさく思ったりもしたが、この子には特に深い意味はないのだろうと思った。
「そうだ、君の名前も考えないとね。7038号だなんて呼び方やだもんね。こっちも呼びにくいし。」
「私の・・・名前・・・。」
孝明にそう言われキョトンとする少女。
そこで成瀬が口を挟む。
「よし。私は『政宗』がいいと思うのだが、どうかね?」
「私の中のデータバンクとネット経由の情報照らし合わせて分析した結果、男の人の名前みたいで可愛くない。却下。博士、ネーミングセンスなさすぎ。」
成瀬は否定された上追い打ちをくらいショックを受けひざまつく。
まさか自分の造ったアンドロイドにここまで言われるとは思ってもいなかったのだろう。
そばで聞いていた孝明も飽きれた顔で見ていた。
孝明はあまり相手の言動に対して悪く言ったり否定的なことを言ったりするタイプではないのだが、それでも『マジで言ってんのかなこの人。女の子の名前に政宗はないだろ』と心の中で呟いた。
「僕は・・・そうだなあ。アイリー。『アイリー』って名前がいいかなあって思ってるんだけど・・・。どうかな?」
彼女は少し間を置くと孝明の問いに返事を返す。
「うん。すごいいい。孝明、可愛い名前ありがとう。」
返答する時無表情の彼女が微笑んだように見えたのだが、成瀬いわくまだ感情表現がうまくいかないようなので自分がそういう反応をしてほしいという願望でそういう風に見えたのだろうと孝明は自分に言い聞かせた。
「じゃあ行こうか、アイリー。改めてよろしく」
「うん、よろしく孝明。」
そう挨拶すると孝明はふと疑問に思い成瀬に質問を投げかける。
「そうだ。この子って稼働続けるためのエネルギー・・・って言えばいいのかな?車のガソリンや人間の食事みたいな・・・。そういうのはどうしたらいいんですか?」
「あ・・・ああ。太陽光発電の応用で稼働してるからその辺は心配ないよ。しかも曇りや雨の日でも問題なく動けるくらいに・・・ね・・・。」
成瀬はうつむいていた頭を少し上げつつ答えてくれた。
「なるほど。分かりました。」
孝明とアイリーはその場を後にし出て行こうとする。
「じゃあね博士。いつまでも落ち込んでたらダメだよ。」
そこまで追い込んだの君なんだけどね・・・。と孝明は心の中で突っ込んだ。
「じゃあ失礼します。」
二人が研究所を出ると成瀬はボソッと独り言を呟く。
「私ってそんなに名前のセンスないかなあ・・・。」
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