第28話 悪夢の始まり

 藤井孝明ふじいたかあきは大学へ向かおうと玄関へ向かい、アイリーが見送りする。


 そしてアイリーがたまには夕飯孝明がリクエストをしてはどうかと聞き、孝明がそれに答えると改めて大学へと向かった。








 孝明は大学に到着し教室内へ移動しようとすると山崎悠真やまざきゆうまに出くわす。


「おっす、孝明。」


「ああ。おはよう、悠馬。」


 二人は軽く挨拶をするとそのまま一緒に歩き続ける。すると悠真は孝明に話しかける。


「なあ。あれから、お前らどんな感じだ?」


「ん?何のことだよ?」


茉莉花まりかだよ。前、あいつの様子がおかしいから気を付けた方がいいって話しただろ?あれから、あいつと会ったのか?」


 それを聞くと孝明はうつむき話すのをためらう様子を見せるが、悠馬の質問に答える。


「うん、会ったよ。前の日曜日に。」


「何か変わった様子とかあったか?」


 孝明は少し悲しそうな様子で答える。


「最初はこっちが話しかけてもだんまりでさ。で、ようやく口を開いたかと思ったら、いきなり僕が茉莉花と付き合ってる時の態度とアイリーの時とでは全然違うみたいに言われたよ。なんで自分の時より楽しそうにしてるんだって。」


「・・・やっぱりあいつ、お前とアイリーちゃんのこと気にしてたんだな。」


 悠真は孝明の話を聞き案の定といった感じだった。


「アイリー本当は2カ月で帰る予定だったろ?それを延ばしたことを言ってなかったのも気に入らなかったらしいよ。言ってなかっただけなんだけど、あいつは隠してたと思ってたらしい。」


 孝明はそう言うとその後のことを話し出す。


「しかもその後アイリーの事をオモチャ呼ばわりしたり、そんなのに夢中になってる男なんてキモいとか言われて・・・それで僕つい怒って反論しちゃったんだ。それの何が悪いんだよって。」


「お前が怒るだなんて相当だったんだな。」


 悠真が答えると孝明は続ける。


「アイリーのことをオモチャだんて言われて・・・我慢できなかったんだ。だから、つい・・・。」


 孝明の答えに悠真は笑いだす。


「ははっ。やっぱ怒りのポイントはそこかあ。お前自分の悪口は言われてもそんな怒ることなんてないもんなあ。」


 自分を罵倒されてもそこまで気にしない孝明だったが、自分の友人や家族を罵られるのは我慢できなかった。

 まして孝明にとってアイリーは家族かそれ以上の存在だったので聞き逃すことができなかったのだろう。


「それで、その後どうなったんだ?」


 悠真は改めて孝明に聞く。


「色々と言い合って最終的に怒って帰ってっちゃったよ。」


「そ・・・そうか・・・。」


 悠真はどう反応すべきか悩みつつ答える。そして少し考えこむと顔を上げ話出す。


「まあ・・・あれだ。特に大きなトラブルとかはなかったみたいでよかったな。あいつが機嫌悪そうにして帰ってくなんて珍しいことじゃないんだろ?」


「・・・まあ・・・な・・・。」


 孝明も実際そう思った。

 だがこれから茉莉花とどう接していけばいいのだろうと困惑していた。

 今までも対応に困っていたのは違いないが今回のは訳が違う。

 自分よりアイリーの方が大事なのかと突っ込まれるのではないかと危惧していた。

 本音を言うと茉莉花とは別れてずっとアイリーと一緒にいたいと思っていた。

 だが気があまり強くない孝明はそう言いづらいし、何よりそれは茉莉花を見捨てることになる。

 そうなった時良心の呵責かしゃくさいまれてしまい孝明自身それに耐えられる自信がなかった。


 悠真は孝明の心境を察したのかフォローをする。


「これからも色々あると思うけどさ・・・。俺でよかったら相談乗るから。だから一人で悩んだりすることねえぞ。」


 孝明は悠真の気遣いがありがたいと思い礼を言う。


「うん。ありがとう、悠真。」


 そして二人は自分たちが受ける大学の講義の教室へと向かう。








 孝明が学校へ行っている一方、今日アイリーは家で掃除をし終えると調べものをしていた。

 孝明によりおいしいシチューを食べてほしいと思いよりいい調理法、材料等を調べているようだ。

 本当は自分でアレンジして調理したいところだが、味の分からない彼女にそれはできないので他の人が提供する情報を頼りに作るしかなかった。

 それでも孝明が喜んでくれるのならそれでもいいと思うアイリーであった。


 最近は料理の勉強だけでは時間を持て余してしまうため孝明の負担を減らしたいと思い節約術を調べたり生活面で孝明が健康に悪影響を及ぼす過ごし方をしていないか情報を元に照らし合わせたりしている。

 何もせずに過ごすのも気まずいのでというのもあるが、彼に何かしてあげたいという気持ちが強いのだろう。

 

 だが今日はそれより彼に新しく調べ上げたシチューの作り方を試して早く食べてもらいたいとうずうずしていた。


(孝明早く帰ってこないかなあ。)


 もうすでにシチューは作り置きしておいてあったが孝明が帰ってくるのは後2時間程後だった。

 アイリーは早く自分の作った料理の感想を聞きたくて仕方のない様子であった。


 するとドアチャイムが鳴る。

 アイリーはこんな時間に誰だろうと思いつつも玄関に向かう。


(孝明にしては早すぎる。博士が来るなら私に連絡くらいするだろうし、悠真かな?)


 色々考察しながらアイリーは玄関の扉を開ける。

 そしてそこに立っていたのはアイリーのよく知る人物、花泉茉莉花はないずみまりかであった。


「茉莉花・・・。こんな時間にどうしたの?」


 アイリーが問いかけるが茉莉花は何も答えない。

 うつむいており表情がよく見えない。

 しかししばらくするとゆっくり顔を上げアイリーを睨みつけるように見て答える。


「・・・ちょっと・・・話があるから・・・。ついてきなさい・・・。」


 茉莉花が一体アイリーに何の用だというのか。

 彼女の手には金属バットが握られていた。


 アイリーは何かよくないことが起きる・・・人が嫌な予感と称するものをなんとなく感じているのを自覚する。


 







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