第38話 最後の日常1日目
アイリー、
「ありがとうな、悠真。うちまで付き添ってくれて。」
「気にすんなよ。色々あって疲れただろうし、あんまりお前とアイリーちゃんだけにしておくのも心配だしな。」
悠真の気遣いに心から感謝する孝明であった。
故に余計こんな騒動に巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思ってしまう。
「それで・・・お前これからどうするつもりなんだよ?」
悠真は今の孝明には酷な質問かもと思いつつも聞いておかなければならないことだと思い確認しようと尋ねる。
孝明は悩ましい表情ではあったが、どうするか心に決めていたことがあるのでそれを伝えることにした。
「この3日間できるだけアイリーと一緒に過ごそうと思う。だから、学校もバイト休むよ。」
「・・・そうか。そうするんじゃないかってなんとなく思ってたよ。」
悠真はそう言うと孝明に尋ねる。
「なあ、今日はもう帰るけど明日お前の家来てもいいか?俺もアイリーちゃんと一緒に過ごしてみたいんだ。もう時間も限られてるしよ。」
孝明はそれを聞くと軽く微笑み頷く。
「そうしてくれると嬉しいよ。アイリーもそうだろ?」
孝明はそう尋ねつつアイリーの様子を伺う。
うつむき表情は分かりにくかったが先ほどの絶望感に満ちた顔はとりあえず消えた様子だった。
いつも無表情だった彼女があのような顔をするなど正直驚いたが今はいつも通りの様子であった。
「うん。悠真来てくれると嬉しい。」
アイリーがそう答えると悠真は帰路につき孝明のアパートを後にする。
孝明とアイリーも家へと入り、アイリーが作ってくれていたシチューを食べてから就寝する。
翌日の夕方、学校が終わり孝明のアパートへ到着した悠真はインターホンを鳴らし孝明に出迎えてもらうと中へと入って行く。
「よっ。アイリーちゃんに会いに来たぜ。」
「なんだよ、俺はないがしろかよ。」
孝明が少し皮肉を込めて言うが悠真は苦笑しながら言う。
「はははっ。そうすねるなって。勿論お前にもだよ。」
するとアイリーも出迎えに玄関へと来る。
「悠真、来てくれた。私嬉しい。」
アイリーがそう言うと悠真が挨拶を返す。
「よ・・・よお、アイリーちゃん・・・。思ったより元気そうでよかった・・・。」
孝明は何か悠真の表情が少し引きつるというか怯えてるような様子を感じ取った。
(気のせいかな・・・?)
そう思いつつも孝明は悠真を家へと招き入れる。
「悠真。今ご飯作ってるからよかったら食べてって。」
「あ・・・ああ。サンキュー・・・な。ちょうど腹減ってたんだ。」
『彼女の手料理を食べられるのもあとわずかかあ』と言おうと思った悠真だったが、残された時間がわずかであることを意識させるのは二人に申し訳ないと思い悠真は言わないでおいた。
孝明と悠真はテーブルにつきアイリーが料理を作り終えるのを雑談しながら待つ。
「で、二人で今まで何して過ごしてたんだよ?」
「え?まあ・・・一緒に料理作ったり映画観たりとかかなあ。」
悠真の質問に孝明は少し照れながら答える。
「お?もう恋人同士みたいじゃん。羨ましいなあ。」
「ちょっ・・・。茶化すなよお。」
二人で談笑しているとアイリーが料理を孝明達の元へ運んでくる。
「お待たせ二人とも。今日はいっぱい頑張ってみた。」
「あ・・・。たくさん・・・作ったんだなあ。食べきれるかなあ・・・?」
3人で食事をテーブルの上に並べていく。
並べ終わると孝明と悠真は食事を始めようとする。
「それじゃあ・・・いただきまーす。アイリーちゃんが一緒に食事できないのが残念・・・だよなあ・・・。」
「ん。それはしょうがない。私のことは気にしなくていいから食べて。」
そうアイリーに言われると二人でアイリーの作った料理を食べ始める。
「う・・・美味いなあ。アイリーちゃん相変わらず・・・いや今まで以上に料理上手いよなあ・・・。」
「ん。ありがとう。そう言ってくれると嬉しいってきっと感じ取ってる。」
そうやり取りしているが、孝明は先ほどから悠真の様子がおかしいことに気づく。
自分と接している時は普段通りなのにアイリーがいる時はどことなくぎこちないというか何か無理をしているように感じる。
「悠真。お前どこか具合悪いのか?ちょっと様子が変な気がするけど・・・?」
孝明がそう尋ねると悠真が驚くように答える。
「そ・・・そんなことねえって!俺はいつも通りだよ!え~と・・・。次はこのサラダでももらおうかなあっと。」
「ん、悠真。そのサラダそのままじゃ食べるのきついと思うから、これかけるといい。」
その様子を見てアイリーがドレッシングを悠真に手渡そうとする。
しかし悠真はそれを受け取るどころか手を引っ込め身体ごと後ずさりさせる。
「ひっ・・・!!」
悠真はらしからぬ声を上げた。
そしてよく見ると悠真の身体が震えているのにアイリーと孝明は気づく。
それを見たアイリーは察した様子で悠真に問う。
「悠真・・・。もしかして・・・私が怖い?」
「・・・!!」
孝明は驚いた様子を見せ悠真は図星を付かれた様子を見せる。
何も言い訳や誤魔化す方法を思い浮かばない悠真はそのままの体制で身体を震わせうつむく。
「ご・・・ごめ・・・。アイリーちゃん・・・俺・・・。」
そう謝る悠真だったが、アイリーは首を横に振り答える。
「あんなことがあったから仕方ない。悠真は何も悪くないから・・・。むしろそれなのに来てくれて感謝しないといけない。」
アイリーはそのまま席を立ちを立つ。
「じゃあ、私隣の部屋で待ってるから。ご飯食べ終わったら食器は置いておいて。後で洗っておくから。」
アイリーはそう行って部屋を出て扉を閉める。
その声はどことなく暗い感じが伝わってきた。
孝明は二人を心配するような目で双方を見る。
悠真は正座の姿勢に直し両握り拳を膝についたまま震えている。
今は恐怖のためというより己の怒りによりという感じであった。
静寂な空間が続く中悠真が叫び出す。
「ち・・・くしょう・・・。ちくしょお!ちくしょおおぉぉーー!!俺の・・・俺の大バカ野郎ー!!」
悠真そう叫びながら何度も自分の膝を叩き続けた。
孝明もどう反応すればいいのか分からずただただ静観し続けるしかなかった。
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