第39話 最後の日常1日目その2
アイリーを傷つけてしまったことにショックを受けどう振る舞うべきか困惑していた
せっかく彼女が作ってくれた食事を残すのは申し訳ないと思っていたのだろう。
食事を終え食器をシンクへと運ぶ。
孝明は食器は後で洗っておくからいいよと悠真に言い、帰宅する悠真を送り出そうと玄関へ一緒に向かう。
「じゃあな、孝明。今日はごめんな。俺のせいでせっかくの食事が台無しになっちまって・・・。」
「何言ってんだよ。来てくれて本当に感謝してるよ。アイリーだって嬉しいって言ってただろ?こっちこそ、無理させたみたいでごめんな。」
孝明がそう言うと悠真は孝明の後方を確認し尋ねる。
「アイリーちゃんはまだ奥の部屋で閉じこもってるのか?」
「ああ。本当は悠真を送り迎えしたいけど、これ以上怖がらせるの申し訳ないから僕だけで行ってくれってさ。」
「そ・・・そうか。気使わせてばっかで悪いな。」
悠真は考え込む様子を見せると孝明を尋ねる。
「なあ。お前はこのまま最後まで彼女と一緒にいるつもりか?」
孝明は頷き返答する。
「ああ。アイリーのそばにいてあげられるのはもう僕しかいないし、残りわずかな時間、あの子にできるだけのことはしてあげたい。」
「そ・・・そうか・・・。」
悠真は再度考え込み孝明に話しかける。
「あの
「え?どうしたんだよ、
孝明は意表を突かれた様子で問う。
「あの人さ、なんかすごい厳しくて愛想のない感じだったけど、思いやりはすごいある人だと思うんだ、俺は。」
悠真は孝明の反応を待つことなく続ける。
「アイリーちゃんのこと俺らから引き離すような言動してたけどさ。それも俺らや周りの人のことを考えた結果だと思うんだ。」
「・・・そうだな。」
孝明は相槌を打つ。
「なのにあの人お前とアイリーちゃんのために時間をくれてさ。万が一のことがあったら責任重大だろうに。ただでさえ現状でもかなり非難されてると思うぜ。」
言われてみれば悠真の言う通りである。
本来ならすぐにアイリーを回収しなければならないところを太田は猶予を与えてくれていたのだ。そんな義理は無いはずなのに。
彼の言ったことを思い返してみても、間違ったことは言っていない筈である。
警察の仕事は市民の安全確保である。彼らからしたら言い方は悪いが物であるアンドロイドより人の命を優先するのは当然であろう。
「多分少しでもお前の気持ちを汲んでやろうと思ったんじゃねえか?なんかアイリーちゃんに対する必死さが伝わったんだよ。」
「そうなのかもな。・・・でもなんで・・・。」
「なんでいきなりこんなこと言い出したかってか?いや、お前があの人のこと恨んでたりしないかなあって思ってさ。お前やアイリーちゃんにきつい当たり方してたから。」
悠真の言葉に孝明は首を横に振る。
「大丈夫。別に恨んでなんかいないよ。仕方のないことだって僕もちゃんと分かってるから。」
「・・・そうか。それならよかった。」
悠真が軽く笑いながら答える。
「じゃあ俺帰るな。これ以上お前らを傷つけたくないから俺もう来ないよ。アイリーちゃんにもよろしくな。」
「ああ、ありがとう。」
悠真が帰ろうとすると扉を開けた瞬間立ち止まり孝明の方を向く。
「あ・・・あのさ、孝明・・・。」
「ん?どうしたの?」
悠真は何か言うのをためらっている様子を見せるが少し間を置き答える。
「・・・いや、また学校で会おうな。」
「ああ、またな。」
悠真は孝明の身の安全を心配しており『お前も気をつけろよ』と言おうと思っていた。
しかしアイリーが危険な存在であることを改めて示唆するようなことを言ったり孝明の不安を煽るような真似をするのはよくないと思い言うのをやめた。
悠真はアパートを出てしばらく歩くと再度振り返り一人ぼそっと呟く。
「本当に・・・また学校に来いよ。絶対・・・。」
悠真はそのまま自宅へと向かい歩き出す。
悠真を送り迎えた孝明は食器を洗おうとキッチンへ向かった。
しかしすでにアイリーが部屋から出てきており先に洗いものをしていた。
すでに片付けが終わったようであった。
「あ、ありがとうアイリー。片づけてくれてたんだね。」
「ん。全部終わった。・・・悠真はもう帰った?」
孝明は頷き答える。
「うん。アイリーのこと傷つけて申し訳なかったってさ。」
「ん。悠真何も悪くない。だから気にしなくて大丈夫。」
アイリーの優しい気遣いに嬉しく思いながらもこれからどう彼女と過ごそうか考える。
「アイリー、ゲームでも一緒にやる?モリオカート前買っておいてまだやってなかったからさ。」
「ん。一緒に遊ぼう。孝明とやるの楽しみ。」
孝明はゲーム機の用意をしようとする。
するとアイリーが何か呟きだす。
「孝明・・・。私・・・もし警察に引き渡されることなくても・・・もう・・・外の世界にいけないんだよね・・・?」
「・・・アイリー?」
唐突なアイリーの発言に対して問いただす孝明。
「ヅイッターでこの前の事件のこと調べたら・・・たくさん私の事書かれてて・・・。私の事色んな人に知られてるみたいで・・・。」
孝明はアイリーが何か言い切る前に嫌な予感がしスマホからウイッターを開き『アンドロイド』というワードで検索する。
すると例の
『女子大生殺したの人命救助用のアンドロイドだってさあ。』
『何が人命救助だよ。殺人用の間違いだろ。』
『うわ、こわっ!俺関わらなくてよかったあ。』
『さっさと処分しろよ。二度と人間社会に入ってくるな。人殺し。』
他にも似たような呟きが並び続けていた。
こうなっているだろうということは孝明も予想していたが、まさかアイリーがそれを見に行っていたとは思ってもいなかった。
孝明は顔を青ざめアイリーの方へ駆け寄り彼女の肩を掴む。
「アイリー!自分のコンピューターから開いてるんだろ!?早く閉じて!」
孝明にそう言われアイリーは身体を震えさせるのをやめる。
「もう・・・閉じたから大丈夫。」
アイリーはそう言うと孝明の胸元の服を掴み頭をうずめる。
「孝明。私・・・もう・・・人と関わることできないんだよね・・・。外の人みんな私と関わりたくないって・・・。博士ももういつ出て来られるか分からない・・・。悠真も・・・私の事怖がってる・・・。もう・・・私には・・・誰もいないんだよね・・・。」
いくらプログラムされているとは言ってもまだ感情表現は未完成のハズである。
しかし
孝明は力いっぱいアイリーを抱きしめ励まそうとする。
「アイリー・・・。僕が・・・僕がいるから・・・。最後まで・・・1秒でも長く一緒にいるから・・・。」
孝明がそう言うとアイリーは震えを止め、優しく孝明に抱き着く。
「孝明・・・。ありがとう・・・。」
二人は抱きしめ合ったまま、静寂の夜が過ぎて行った。
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