第40話 最後の日常2日目
するとアイリーがすでに朝食の準備をしていた。
「おはようアイリー。」
孝明に気づいたアイリーは挨拶を返す。
「ん。おはよう孝明。ちょっと待ってて。もうすぐ朝ごはんの準備できるから。」
「ありがとう。いつも助かるよ。」
孝明はテーブルに付きアイリーが朝食を作り終えるのを待つ。
「お待たせ孝明。今日フレンチトーストにチャレンジしてみた。美味しくできてるか味見してほしい。」
「お、いいねえ。今日初めてじゃない?」
孝明は嬉しそうにアイリーの作ったフレンチトーストをほおばる。
「美味しいよ。やっぱりアイリー料理上手だね。」
「ん。私はレシピ通りに作っただけ。すごいのは考えた人。」
アイリーは謙遜するが、孝明はそれでも彼女を褒めちぎる。
「それでもすごいよ。アイリーいつもありがとう。」
孝明に褒められ少し照れているのか、少しうつむきながら言う。
彼女に照れるなどという概念があるのかどうかは分からないが。
「孝明に褒めてもらえると嬉しい。作り甲斐がある。」
アイリーは自分の作ったフレンチトーストを食べている孝明をしばらく見ていると孝明に話しかける。
「孝明、昨日はありがとう。」
「・・・え。どうしたの?急に。」
孝明は食事を中断しアイリーに聞き返す。
「私が昨日パニックになってたら介抱して慰めてくれたでしょ?『最後まで一緒にいてくれる』って言ってくれてすごく嬉しかった。」
「いや、当然だって。君は何も悪くないんだから。僕まで君の事見放したらあまりにもかわいそうすぎるもん。あんな書き込み気にする必要ないよ。」
孝明がアイリーをフォローすると、アイリーは尋ね返す。
「かわいそうだから、一緒にいてくれるの?」
「いや・・・。それもあるけど・・・。僕がアイリーと・・・一緒にいたいからだよ。だって僕君を・・・。」
孝明は最後まで言い切ることができず黙り込んでしまう。
「・・・うん。ありがとう、孝明。」
アイリーは少し微笑みを見せながらお礼を言う。
あまり表情を見せない彼女であるが故に孝明はこういうことがあると少々だが驚かされる。
「・・・だけど・・・殺人マシーンっていうのは・・・間違ってないかも・・・しれない・・・。」
アイリーはうつむきながらそう言い出し、孝明はアイリーの発言に対し驚き聞き返す。
「な・・・何言ってんだよ、アイリー。あれは僕を守ろうとしてやっただけで別に殺意あってやったことじゃないだろ。だからネットのコメントなんて気にする必要ないんだって。」
孝明がフォローを入れるがアイリーは否定し続ける。
「私・・・あの時孝明を守りたいって・・・茉莉花をどうにかしなきゃって思った。その後は身体が勝手に動いた感じだけど・・・。」
アイリーはそう言うと自分を抱きかかえるように自分で自分の腕を掴み震えだす。
「だけど・・・私・・・心・・・って言い方もおかしいけど・・・どこかで茉莉花が死んでよかったって思ってる部分がある気がする・・・。これ・・・安心って・・・言うのかな・・・?人一人死んでるのに・・・こんな気持ちになるなんて・・・。」
「アイリー!」
孝明は不安に満ち溢れているアイリーをなだめようと名前を呼ぶが聞いていない様子であった。
「研究所にいた
「アイリー!!」
孝明は再度名を呼びアイリーを強く抱きしめる。
「孝明・・・。」
孝明は何も言わずアイリーを抱きしめ続けた。
アイリーもそのまま何もせず時間だけが過ぎていった。
「人殺しをしたいなんて思ってるやつがそんな風に苦しんだりしないよ!君には温かいハートがあるから、人を殺めてしまった自責の念に
「孝明・・・。」
「アイリー。君は茉莉花や研究所の人たちを殺してしまったこと自体を喜んでる訳じゃないんじゃないのか?」
「・・・え?」
アイリーは不思議そうな目で孝明を見る。
「君は研究所の
アイリーは首を横に振り否定する。
「してない。でも新沼って人が死んだ時は・・・ちょっと・・・そういう気持ち・・・あったかも・・・。」
「君は事件を起こした張本人がいなくなって、もう傷つける人がいなくなったことに対してそう感じただけなんだと思う。残酷だけど、人間だってそういう風に思っちゃうんだ。」
アイリーは孝明の言葉を聞き少し心が救われたような感じがした。
自分が人の死でどことなくほっとしたような気持になったのは、危害を加える人間がいなくなったことから来たものだと孝明がそう言ってくれているためである。
「孝明も・・・茉莉花が死んでそういう風に感じてたの?」
「少しそう思ってたと思う。茉莉花に殺されるところを助けられたり、普段から彼女のわがままに振り回される日々から解放されたんだって・・・。そんな風に心のどこかで思ってるんだと思う。」
アイリーは自分が人殺しを楽しんでた訳ではないということを諭され安らいだ気持ちになった。
孝明の優しさに感謝し、彼をそっと抱きしめる。
「でも・・・。それだけじゃないかもしれない。」
「え?」
孝明は唐突なアイリーの発言に対し聞き返す。
「私・・・茉莉花が羨ましかったのかもしれない・・・。孝明の彼女ってポジションにいて・・・。なんでそこにいるのが私じゃないんだろうって・・・。これって人間の言葉で・・・『嫉妬』って言うんだっけ?多分、そんな風に思ってたのかも・・・。だから・・・茉莉花がいなくなって・・・嬉しいなんて思っちゃったのかも・・・。最低だよね・・・私。」
「アイリー・・・。」
孝明はそっとアイリーを少し引き離し彼女を見下ろすような感じで見つめる。アイリーも孝明の方を見つめる。
「僕も似たようなこと思ってた。君が・・・僕の彼女だったらよかったのにって・・・。」
アイリーはその言葉を聞きアイリーは驚くように目を見開き孝明の顔を見つめる。
孝明が自分と同じことを望んでいた。
たとえ本当にそのような関係になれなくともアイリーはそれだけで満足だった。
「孝明・・・嬉しい。」
二人は黙したまま抱き合いそのまま時間だけが過ぎて行った。
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