第17話 相容れない仲

 今日は花泉茉莉花はないずみまりかと会う約束をしており彼女と喫茶店へ入る。

 藤井孝明ふじいたかあきと茉莉花は注文をし終えると茉莉花が孝明に質問を投げつける。


「今日って普通にデートのために会う約束したんだよねえ?」


「う・・・うん。そうだね・・・。」


 孝明は気まずそうに答える。


「デートって普通男と女マンツーマンで過ごすもんだよね?」


「そ・・・ソウデスネ・・・。」


 孝明はなぜか片言で敬語になってしまう。


「じゃあ・・・この子は何?」


 そう言いながら茉莉花は孝明の隣に座っているアイリーを指指す。

 孝明は困惑しつつ茉莉花に説明する。


「ほ・・・ほら。何度か会っただろ?アイリーだよ。アンドロイドのモニタリングとしてうちで一緒に暮らしてる・・・。」


「そんなお約束のギャグみたいな回答をあたしが求めてると思う?それとも『そんなこと聞いてるんじゃない!』って突っ込んでほしいの?」


「す・・・すいません・・・。」


 もちろんそのようなことを聞いてきた訳ではないのは百も承知だったのだが、どう説明するか困っていた孝明はズレた返事を返してしまった。


「ア・・・アイリーが茉莉花とも仲良くしたいって言い出してさあ。今日お前と会う約束してたからちょうどいいかなあって・・・。」


「だからって普通デートで人連れてくる?しかもアンドロイドとはいえ女の子を、あたしに断りもなしでとか。っとに信じられないわ、あんた。」


 デート当日ギリギリにキャンセルしてきたり気まぐれでいきなり帰るとかちょくちょく言い出すお前が言うなよとか突っ込みたくなる孝明だったが、茉莉花の怒りを買うだけなのでやめておこうと思った。


「ごめん、茉莉花。私が付いて行きたいって言ったから。孝明何も悪くない。」


 アイリーは本当に申し訳なさそうに謝るが、茉莉花は舌打ちをする。


「悪いって思ってるなら来ないで。興ざめするわ。」


「・・・ごめん。」


「いちいち謝らないで。余計イライラするから。」


 そこまで言われてしまいアイリーは黙り込んでしまう。

 純粋に茉莉花ともうまくやっていきたいと思っていたようだが、どうにも自分のことをよく思っていないようでどうしたものかと困惑する。

 孝明もどうするべきか悩み、気まずい雰囲気に包み込まれる。


「あのさ・・・。勝手に連れてきたのは謝るよ。だけどせっかくだし、お前とアイリーにも仲良くしてほしいって思ってるんだけど・・・だめ・・・かな・・・?」


「別に。あたしはこの子に何の興味もないし。」


「そ・・・そうか・・・。」


 なんとか会話を弾ませようと思う孝明だったが、再び静まり返ってしまう。

 茉莉花はアイリーと仲良くなる気など毛頭ないのだろうと悟った。

 

 茉莉花はこの前アイリーと出会った時の事思い出して思想を巡らす。


(だいたいこの間嫌がらせと言わんばかりにこの子が楽しめない場所に孝明とこの子を連れまわしたのに、あたしと仲良くしたいってどういう魂胆があるってんだろ?あれがそういうものだって認識できてないってこと?それとも単なるドM?やっぱアンドロイドって何考えてるのかさっぱりだわ。)


 孝明は直接茉莉花とアイリーを交流させるより、自分が話の中心になって自然と二人を溶け込ませた方がいいのではと思い自分が話題を振ろうと考えた。


「そうだ、茉莉花。もうすぐ向かいの所に新しいお好み焼き屋ができるんだ。今度行ってみないか?」


「あたしお好み焼き好きじゃないのよねえ。それよりこの前『レジェハチ』で欲しかったSSRキャラ手に入ったわ!ちょっとお金かかっちゃったけど、前々から欲しかったからラッキーだわ!」


「あ・・・ああ。そうなんだ・・・。」


 『レジェハチ』とは茉莉花がやっているソシャゲのタイトルだ。

 茉莉花はよくこのゲームの話を持ち出すのだが、孝明はやっていないので彼からすると何の話をしているのかさっぱりであった。

 それにゲームに課金するお金があるのならあんまり人におねだりしたり奢らせたりするのをやめてくれと言いたくなってきた。

 茉莉花はしばらくそのゲームの話を延々としており、孝明は定期的に相槌あいづちを打つという繰り返しであった。

 茉莉花は途中で話を中断し孝明を睨みつける。


「なんか返事が適当臭くない?とりあえず『あー、そうなんだあ』とか言っておけばいいみたいな。」


「そ・・・そんなことないって!」


 孝明は図星を付かれて焦りながら答える。

 茉莉花は不審そうな目で孝明を睨み続けるが、アイリーが横から口を挟む。


「それはそう。だって茉莉花、自分が分かる話しかしてない。」


「・・・!アイリー!?」


「・・・ああっ!!?」


 突然のアイリーの発言に孝明は驚き戸惑い、茉莉花は怒り睨みつける。


「会話ってお互い共感できたり興味あること話して盛り上げていくもの。自分だけ好きだったり興味あること話ても自分が楽しいだけ。相手は何も楽しくない。」


「くっ・・・!」


 反論に困る茉莉花を無視しアイリーは続ける。


「しかも孝明は茉莉花の話してるゲームの事知らなさそう。それじゃあどう反応したらいいか孝明だって分からないし、ついていけない。それで相手に盛り上がるよう要求するのは困難。」


 茉莉花はアイリーの言葉に腹を立て机を叩きながら席を立つ。


「うっさいわ!勝手に孝明について来て人の事批判して!あんた何様のつもりよ!!」


「不愉快にさせたのは謝る。でももっと茉莉花は相手の気持ちをもっとよく考えるべき。そうじゃないと相手も辛いし後々茉莉花自身も苦しめることになる。」


「アイリー・・・。」


 茉莉花は自分だけ悪く言われ孝明を擁護されたことに腹を立て鞄を持つ。


「あーっもう!ほんっとうに腹立つ子ね!もういいわ!あたし、帰るから!ここの代金払っといてよ!」


 そう言って茉莉花は店を出て行ってしまう。


 『またこのパターンかよ』と心の中で思う孝明だったが、そんなこと口にする気力もなかった。

 それにアイリーの前であまり愚痴っぽいことも言いたくないとも思っていた。


「孝明・・・ごめん。私のせいでデート台無しになっちゃった。」


 アイリーが申し訳なさそうに謝る。

 しかし孝明は笑顔でアイリーをフォローしようとする。


「ううん。むしろアイリーよく言ってくれたよ。茉莉花にも人との接し方を覚えてもらわないといけないから、ああいうことは言ってあげないとね。」


 とは言っても彼女のことだからアイリーの言ったことも理解はしてくれないだろうとは内心思っていた。


 孝明は空き時間ができたのでアイリーと有意義に過ごしたいと思い彼女を誘うことにした。


「アイリー、せっかくだからどこかその辺でもブラつかない?」


 アイリーは小さく頷く。


「うん。私も孝明とどこか行きたい。」


 二人は喫茶店を出て一日かけて街中を出歩き楽しむことにした。












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