ピグマリオンコンプレックス 人形を愛する者

キュー

第1話 冷めた恋人

 僕は藤井孝明ふじいたかあき。今年で大学2年生になる。


 僕には去年から付き合っている花泉茉莉花はないずみまりかという彼女がいる。


 僕は大学の英語サークルに入っていたのだが、そこで彼女と知り合った。

 彼女とよく英会話の練習がてら話す機会が多かったのだが、いつの間にかサークル外でも付き合うようになりだし一緒に食事をしたり買い物に出かけたりするようになっていた。

 今はバイトとの掛け持ちが厳しくなりサークルは辞めてしまったが。


 最初はとても嬉しかった。

 まさか自分と付き合ってくれる女の子が現れるとは思ってもいなかったからだ。


 だが、彼女が段々と冷たく・・・というか我が出てきているようにしか見えない。

 一緒に話をしていても自分の話したいことややりたいことを言うだけになってきており、最近何かしら高いものを要求してくることが多くなってきている。


 






 この前の休日の時もそうだった。


 二人で喫茶店で食事をしている時だった。


「ねえ、この財布めっちゃよくない?これほしいんだけど。」

 

 茉莉花はスマホの画像を孝明に見せつける。

 そこにはいかにも高そうな財布の画像が映し出されていた。


 『奇跡の白薔薇 ホワイトローズの財布 ¥29700 』


「え・・・。ちょっと、高くない?先月もバッグ買ってあげたばっかだし・・・。」

 

 当然孝明はためらう。そんな高いものただの大学生である彼に簡単に買える訳ないからだ。

 しかし茉莉花はそんなことお構いなしと言わんばかりに続ける。


「えー、いいじゃんいいじゃん。もうバイト代入ったんでしょ?足りなかったら親から仕送り増やしてもらえばいいんだしさあ。」


 孝明は一人暮らしで仕送りしてもらいつつバイトもしながら大学に通っているが、そこまで余裕はない。

 両親にもこれ以上援助してもらうのは正直厳しい上理由が生活に必要なものではないため頼みづらい。

 何より親にあまり迷惑をかけたくなかった。


「ごめん・・・。やっぱり無理だよ。」

 

 孝明がそう言うと茉莉花から舌打ちする音が聞こえた。

 明らかに機嫌が悪そうな彼女を見て何か盛り上がる話題がないか頭を巡らせる。


「そ・・・そうだ。この前かわいい動物のグッズが売ってる雑貨屋見つけたんだ。今からそこに行ってみない?」

 

 孝明は提案するが茉莉花はそっぽ向いたまま返事をする。


「え~、興味ない。」


 茉莉花は前からそうであった。かわいい物が好きな女の子というのはけっこういそうなものだが、彼女はそういうのに関心がないようであった。

 正直孝明はどのような返事が返ってくるか予想できていたが、他に提案できるものが思い浮かばなかった。

 孝明は別の話題を必死に考える。


「そ・・・そういえば、前ヨーチューブで面白い動画見つけてさあ。もしエレベーターが落下した時の対処法が・・・。」


「あっそう。」


 まだ最後まで話していないのに茉莉花は返事を返す。

 もはや真面目に話を聞く気すらない彼女を目の前にして孝明はどうしたらいいのか困惑していた。


「それよりさあ、聞いてよ。真由まゆったらまたバイト先でお店の皿割ったんだって。もう何回目よって感じ。ハハッ。」


「へ・・・へえ。そうなんだ。アハハ・・・。」


 真由とは西脇真由にしわきまゆという名の彼女の高校時代の同級生らしい。

 通ってる大学は違うが連絡のやり取りはしてるようだ。

 茉莉花の話す彼女の話題は人の恥部を晒すような話題が多かった。

 正直そういう話はしてほしくないが、下手に口出しすると機嫌を損ねてしまうので毎回相槌を打ったり話を合わせたりしている。


 しばらく話込むと(というか彼女が一方的に何か話してただけだが)茉莉花は席を立つ。


「じゃああたしそろそろ帰るわ。あ、ここの勘定お願いね。」


「・・・え!もう!?もうちょっとどこかへ一緒に遊びに行くとか・・・!」


「なんか疲れた。じゃあね。」

 

 彼女の気まぐれはいつものことだったが、いまだに慣れない。

 前日に行きたいところを指定して当日に別の所へ行きたいと言い出すこともあり、今回のように急に帰るなどと言い出すことも珍しくなかった。

 

 彼女が帰った後、孝明も店を出て呆然と立ち尽くす。


「何やってんだろ・・・、僕は。」








 正直彼女との関係を断った方がいいのでは?と思うこともしばしばあった。

 しかし気があまり強くない孝明は自分から別れようなどと言いだせなかった。

 しかもこちらから別れるなどと言い出せば彼女のプライドを傷つけることになり、どれだけ怒り狂うか分からない。

 報復として孝明のありもしない悪評を流しだすかもしれない。

 ああいう性格だが、彼女はけっこう交流関係が広く色んな人とやりとりしているようだ。

 

 何より自分にとって初めての彼女であり最初はとても親密に接してくれたので、あの時のような関係に戻れないかという淡い期待を抱いていた。


 途方に暮れていた孝明はとりあえず街中をぶらつくことにした。

 

 





 





 

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