第25話 決別

 前回藤井孝明ふじいたかあきと会ってその時の苛立ちがまだ解消されていない花泉茉莉花はないずみまりかは一人で大学から少し離れた喫茶店やゲーセン等に足を運びブラブラしていた。

 ソロでいるつもりはなかったのだが、何人かに一緒に遊びに行かないか電話をしてみたのだ。

 しかし誰にかけても『学校の課題で忙しい』とか『バイトがあるから無理』などと言った理由で断られてきた。

 前々からこういう断られ方をすることが日に日に増えてきていることは茉莉花自身も感じていた。

 

 最初は本当にみんな全く暇がないほどスケジュールが埋まっているのだろうかと思っていた。

 しかしいくらなんでも頻度が高すぎることに疑問が生じ始め、茉莉花の脳裏に不安がよぎり始める。


(あたし、本当に避けられてる・・・?なんで・・・?)


 彼女の立ち振る舞いを知っている者ならそうなるのも当然のことだと一括するところであろうが、今まで周りの人間は自分のために何かしてあげて当然のように振る舞ってきた彼女にとって理解しがたいことであった。

 世界は自分を中心に回っている訳ではないということは理屈では誰でも分かっていることであろうが、それを本能的に理解できていない人間が一定数いるようだ。

 茉莉花もその一人である。








 大学付近まで戻ってきた茉莉花はまだ大学の友人の頼子よりこを誘っていなかったことを思い出し、今から自分に付き合えないか電話してみることにした。

 彼女は大学の近くのアパートに住んでいるのでバイト等の用事がなければすぐに来れるだろうと思ったのだ。

 

 茉莉花は電話をするがなかなか出ない。

 電話を手放し気づかないでいるのかと思い切ろうとすると頼子が電話に出る。

 電話に出たものの頼子は何も話さない。

 茉莉花は何か話すよう促す。


「ちょっと、頼子。何で何もしゃべらないの?もしもし、頼子?」


 返事がなかなか返ってこないが、しばらくするとようやく頼子は反応を示す。


「も・・・もしもし?・・・何の用?」


 頼子が返したことを確認すると茉莉花は要件を話し出す。


「あー、いやさあ。今から大学の近くで遊ばない?どこって訳でもないんだけどゲーセンでもカラオケでもどこでもいいからさあ。ちょっと他の子誘ってみたんだけど、全滅しちゃってぇ~。妥協だけどあんたでも誘ってあげようかなあって・・・。ちょっと頼子、もしもし。聞いてる?」


 再び沈黙が続く。茉莉花は何度も応答するよう呼びかけると電話の向こうから震えるような小声が聞こえてくる。


「もう・・・わ・・・ないで・・・。」


「は?ちょっと。声小さくてよく聞こえないんだけど。言いたいことがあるんならはっきり言いなさいよ。」


「・・・だったら・・・はっきり言ってあげるわよ!!もう電話しないでって言ったのよ!もうあんたに付き合わされるのうんざりだって言ってるのよ!!」


 頼子は茉莉花の言葉で吹っ切れたのかいきなり怒鳴り散らすかのように茉莉花に言い放つ。

 頼子は大人し目の性格でこのように怒り狂ったかのように話すことなど今までなかった。


「・・・は?ちょっと、何よいきなり!どういう意味よ!?」


 茉莉花は今まで聞いたことのない頼子の怒鳴り声と信じられない言葉の内容に動揺をしたが、問い詰めるように頼子に聞く。


「『どういう意味よ!』じゃないわよ!!あんた今まで私にどれだけ迷惑かけてるか分かってるの!?いきなり呼び出して無理矢理自分の都合に合わせて付き合わせるわ、かと思ったら気が進まなくなったからいきなり帰るとか言い出すし!なんで私があんたの都合に合わせないといけないのよ!!」


「なっ・・・!」


 茉莉花は頼子の非難に反応に苦しみ言い返せないでいる。

 自分としては普通の行いだと思いやっていたことが、そこまで頼子にうっぷんを募らせていたとは思いもしなかったようだ。

 しかも未だになぜ彼女がそこまで怒っているのかが理解できないでいた。


「だいたいねえ!!あんた私のCD勝手にパクってったあげくそれを壊して返すとかなんなの!?しかも『また買えばいいじゃん』とか言って謝りもしないとか・・・!!一体どういう人生歩んできたらそんな無神経な立ち振る舞いができるの!?あんた人の心ってものがないんじゃないの!?」


 頼子の怒涛の怒りの声は更に続く。

 今まで抑えてきた彼女の怒りが今回の電話で爆発してしまい、それを一気に吐き出すように茉莉花に対してたまっていたうっぷんを彼女に放つ。


 茉莉花は手足が震え始める。今までそのようなことを言われたことがなく免疫のない彼女にとって予想だにしない批判で胸にナイフでも刺されるような痛みが胸に走り心拍数が急激に上がる。


「・・・じゃあ、RINEも電話もブロックするから・・・。学校で会っても・・・もう話しかけないで・・・。・・・あなたの顔なんて・・・二度と見たくない!!」


「・・・・!!」


 プー、プー、プー・・・


 茉莉花が何かを言う前に頼子は電話を切ってしまう。

 突然の友達からの絶縁に茉莉花は頭の中が真っ白になってしまい呆然とする。


 現実が受け入れられない茉莉花はそれが段々と怒りへと変換され、両手を力いっぱい握りしめる。

 手に持っていたスマホがギチギチ音を鳴らしひび割れるのではないかと思うくらい握られると、茉莉花はスマホを地面に叩きつけ割ってしまう。スマホは画面がひび割れ、破片が辺りに散る。


「・・・っざっけんなあぁー!!あのくそがあぁぁー!!」


 茉莉花は喉が掻き切れそうな声で叫び、辺りに響き渡る。




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