第35話 成瀬の過去2
私たちはどうにかアイリーを人間らしく仕上げたいと思い研究を続けました。
しかしそんなある日例の事件を起こした犯人、
アンドロイドを闘犬のように戦わせたり、それの賭け事をする等娯楽としても楽しめるよう開発してはどうかと提案してきたのです。
私はもちろん却下しました。
アイリーはあくまで世の人の役に立てるよう開発しているものでそんなことのために造っているのではないと。
新沼は納得していない様子でその場を去りました。
そして彼は後日渡辺と口論しておりました。
どうやらまた何かアイリーをよからぬ方向性で使っていこうと提案していたようです。
「俺の案の何がだめなんだよ!?言ってみろよ!!」
「あなたの案がずれてるんですよ!何のために多額の予算と長い時間をかけて開発しているか、もう一度考えてから出直してください!他の方からも同じようなことを言われているのでしょう!?なんで分からないのですか!」
そして新沼は歯を食いしばり部屋を出て行こうとしておりました。
「どいつもこいつも分かんねえやつだな!世の中便利だ人のためだってだけじゃダメなんだよ!」
新沼は扉を勢いよく閉め出て行きました。
渡辺はため息をつき疲れをみせており、私はやりとりの内容を尋ねることにしました。
「渡辺君、彼と何を話していたんだ?また開発中のアンドロイドのことかね?」
「ええ、女の子のアンドロイドを大量生産してキャバクラの接待をやらせようとか言い出すんですよ。本当に何考えてるんですかね。」
「そうか・・・。彼は技術面は優秀なんだがなあ・・・。困ったもんだ。」
ある日研究所のメンバー全員を集めて会議をしておりました。
内容はもちろんアイリーのことについてです。
当然アイリーも同席していました。
ただ新沼は外してました。
彼がいるとまた方針のズレた話をし出し、一向に会議が進まなくなると思ったからです。
会議に参加していた研究員が調査報告を始めました。
「今のところ日常会話も支障がない程度にはできてますし、買い物や家事といった生活に必要なことはできてますね。」
「本来の目的の救助活動などはどうかね?」
「はい。人が持ち上げるのが困難な重い運搬物を運んだり、火事現場を想定して炎の中で指定物の回収など問題なくこなしていました。ただ、強盗のように人が人を襲っている状況でどう動くかはまだ未知ですね。そういうシュミレーションをしてみたのですが、助ける気配がなかったですね。やはり、あくまで実験のために芝居でやってるというのが分かってしまいプログラムが作動しないのかもしれないですね。本当に人が危機的状況でないと助けるべきだと認識できないのかもしれません。」
そう答えると私はどうしたものか悩みながら答えました。
「困ったな。そういう状況に都合よく出くわす訳でもないし、かといって本当にそのような行為を行う訳にもいかんからなあ。」
するとアイリーが口を挟みました。
「博士。私、何かダメなところある?」
「いや、お前は気にしなくていいんだよ。我々に任せておけばいい。期待しておるからな。」
アイリーは分かったと言った感じで頷きました。
そして話を続けました。
「なら、その辺は後回しにして人とのコミュニケーションの改良から入ってみますか?感情の導入をしてからずいぶん経ちますけど、未だにうまくいってないですもんね。」
「そうですよ。こんなかわいい子がこっちの言動に反応して笑ったりしてくれたら嬉しいことこの上ないですよ。僕のように友達も彼女もいない人間とか特に。」
他の社員がそう口を挟みました。
一同は談笑し会議というより雑談に近い感じになっていました。
ですがその時、席を外していた新沼が会議室へ入ってきたのです。
見るからに怒りを募らせているのが皆分かりました。
「おい!なぜあんたら集まってんだ!?各自個々で作業してるんじゃなかったのか!?」
新沼は私たちが彼を抜きに話を進めていたことに気づき飛び込んできたようです。
私たちは口淀んでいましたが、渡辺が前に出て彼に言ったのです。
「分からないんですか?あなたがいると話の路線がずれて進まないからですよ。私たちは真面目にこの子が社会のために役立てるよう改良を施しているのにあなたは毎回毎回・・・。」
その言葉に新沼は怒り狂い噛みつくように言いました。
「お前らの頭が固すぎるんだよ!人が金儲けのためにしか使おうとしないみたいに言ってるけどなあ!お前らのやってることだって結局自分たちの利益と名誉のためだろ!?俺と何が違うってんだよ!」
そして渡辺は新沼を諭すよう伝えようとしました。
「たしかに私たちも自分達のためにこの子の開発に携わっている部分があるのは否定しない。だがそれと同時に我々がこうして新開発することで困っている人々を助けらたらという気持ちでみんな頑張っているんだ。新沼、お前もいい加減気づいてくれ。」
だがそれが逆に彼の怒りを掻き立ててしまいました。
新沼はポケットにしまっていたナイフを取り出し私たちに今にも切りかかりそうな様子でした。
「その人を見下したような態度が気に入らねえんだよ!なんでお前ら俺を認めようとしないんだ!許さねえ!」
皆悲鳴を上げ始め室内は騒然としました。
しかし渡辺がその時新沼に飛び掛かったのです。
彼は新沼を押し倒し腕を押さえつけていました。
「新沼!馬鹿な真似はやめろ!」
「うるせえ!お前こそ放せ!」
二人がもみ合っており他の者は戸惑っていました。
ですがその時アイリーが彼らに向かって飛び向かって行ったのです。
おそらく彼女にプログラムしておいた防衛機能が働いたのでしょう。
ですが彼女は新沼ではなく渡辺に掴みかかり彼を床に押し倒したのです。
おそらく渡辺が新沼を取り押さえているところを見て逆に彼が新沼に襲い掛かっている・・・そのようにプログラムが誤認してしまったのでしょう。
「7038号!何をしている!お前が取り押さえないといけないのはそっちじゃない!」
私は必死に呼びかけ止めようとしましたが、アイリーは聞く耳を持たずターゲットを渡辺に向けたままでした。
そしてアイリーは彼を取り押さえたまま、拳で殴り始めたのです。何度も・・・何度も・・・。
「がっ・・・!!や・・・やめ・・・!!」
人間の力でアイリーにかなうはずもなく渡辺はそのまま一方的に殴られ続けました。
そして次第に彼は動かなくなりました。
渡辺が息絶えたことが一目瞭然でした。
我々全員がその光景を目にしショックのあまり凍り付いていました。
人を守るために開発されたアンドロイドが人を殺めた・・・。しかも犯罪を犯そうとしてた人間ではなくそれを止めようとした相手を。
自分たちの開発は失敗した・・・その現実を受け止めきれなかったのでしょう。
皆悲鳴を上げ逃げ始めました。
そして新沼は足がすくみ震えておりました。
血まみれで動かない渡辺、そしてその場で立ち尽くすアイリーを見て彼は恐怖のあまり外へ向かって走り出し逃げました。
「ひ・・・!!く・・・来るな・・・。来るなあぁー!!」
そして外から何かぶつかるような大きな音がしました。
我々は外へ出て様子を見に行くと車にはねられ横たわっている新沼を発見しました。
どうやら脇目を振らず道路に出て車を横切ろうとして引かれたようです。
一同はその様子を見て愕然としていました。
そして中からアイリーが駆け足で出てきました。
私たちは逃げようと思いましたがアイリーがいつもと変わらない様子であることに気づきました。
どうやらプログラムが目的を完了したと認識し通常状態に戻っていたようです。
「博士?何があったの?・・・に・・・新沼・・・。」
アイリーは中で渡辺が死亡しているのを見て皆が外へ出ていたので追いかけてきたようです。
アイリーは何も覚えてない様子でした。
どうやらプログラムの暴走した時、メモリがショートしていたようです。
私は彼女には事実を彼女に打ち明けないことにしました。
「7038号・・・。何でもないんだ。お前は・・・何も気にする必要はないんだ。」
そして我々は警察を呼び新沼が渡辺を殺害しその後逃げようと外へ飛び出したら車にはねられた・・・そのように嘘の供述をしました。
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