第14話 お出かけ 2

 ゲームセンターの奥へと入っていった藤井孝明ふじいたかあきとアイリーはクレーンゲームの前に立つ。

 ここは前花泉茉莉花はないずみまりかが苛立ちながらぬいぐるみを取ろうとしていた筐体であることを思い出す。

 孝明はそのクレーンゲームの前で立ち止まりアイリーに声を掛ける。


「アイリー、これやってみる?」


「孝明、何これ?」


「クレーンゲームって言って、そのクレーンをこの2つのボタンで操作して中の商品を取るゲームだよ。」


 アイリーはゲーム機をしばらく眺めると孝明に話しかける。


「私、孝明がこれやってるところが見たい。」


「うん、分かった。」


 本当は彼女にゲームを楽しんでもらいたいと思っていたのだが、アイリーがそう望むのならと孝明はゲーム機に向かいクレーンを操作し始める。

 中には大きなぬいぐるみが入っている。

 アイリーはぬいぐるみ自体は欲しいとは思わないだろうが、自分からのプレゼントなら喜んで受け取ってくれるかもと思い取ってみようと意気込む。


「あ・・・あれ・・・?」


 孝明はあまりこのゲームが得意ではなく、なかなか取れずにいた。

 すでに600円ほど使ってしまったが取れずじまいで終わりそうであった。


「はは・・・アイリーやっぱやってみる。」


「うん。」


 どういう意図でやろうと思ったのかは謎であるが、アイリーは孝明に勧められゲーム代を借りクレーンゲームを始める。


「・・・えっ!?」


 アイリーは難なく商品を取ってしまいぬいぐるみを回収する。


「アイリー、このゲーム実はやったことあるとか・・・?」


「ううん。ただネット検索でこのゲームのコツとか調べて実践してみたの。そしたらうまくいった。」


 それでもすごいなあと思う孝明であった。

 いくらうまい人のを参考にしたからと言って、それをそのままいきなりその通りにできるほど簡単なものではないだろう。


「ははっ。かっこ悪いところ見せちゃったなあ。」


 孝明は照れくさそうに言うが、アイリーは恰好なんて気にせず楽しむのが大事と言う。そのフォローが余計辛く感じてしまった。


「孝明、はい。私からのプレゼント。」


(プレゼントするつもりが逆にプレゼントされてしまったなあ)


 孝明はますます格好悪いと思いつつもアイリーの気持ちを嬉しく思い受け取ることにした。


「アイリー、ありがとう。次、行こうか。」


 孝明はぬいぐるみを袋に入れアイリーを連れ移動する。








 孝明はその後もアイリーにゲーセン内のゲームを紹介しつつ一緒に遊んだ。

 一通り遊び終えると二人で店から出てくる。


「ちょっと疲れたね。アイリーは大丈夫?」


「私、ずっと太陽光エネルギーで充電してるから平気。」


 アイリーは相変わらず無表情であったが、本当に疲れていなさそうだ。

 相手がアンドロイドとはいえ男の方が一方的にへばっている姿を見せるのは情けなくて少々辛くなる。


「孝明、どこかでちょっと休む。」


 アイリーはおそらく気を使ってくれたのだろう。

 孝明に休むよう勧める。


「ありがとう、アイリー。」


 孝明は近くの広場で自販機を見つけ飲み物を買うことにした。


「アイリー、君も何か飲・・・。」


 孝明はそう言いかけるとアイリーは何か飲食物を摂取する必要もないことに気が付いた。

 実際人間が口にするものを取り入れる機能など実装されていないだろうし、自分だけ飲み物を買うことに少しためらった。


「私のことは気にしなくていいから、孝明水分補給して。」


「ごめんね、アイリー。」


「仕方のないことだから気にしちゃだめ。」


 本当にいい子だなあと思うが故に余計気を使ってしまう。

 孝明は自販機で飲み物を買うとそれを飲み始める。


 周りを見るとカップルらしき男女を見かける。

 どこかで買ったクレープを食べさせあっているようだ。

 孝明はそれを見てふと茉莉花のことを思い出し思い更ける。

 

(茉莉花とはあんなことやったことないなあ。場合によっては、あんな風になれた未来もあったのかなあ)


 孝明はそんな風に考えているとアイリーがそのカップルをジッと見ていたのに気づく。


(なんだろ?カップルが珍しいのかな?)


 孝明はそんな風に疑問に思ったが、何も聞かないことにした。


「アイリー、今日は楽しかった?」


「うん。またどこかへ連れてってほしい。」


 孝明はそう言われよかったと思う。

 予算の都合もありあまりお金をかけた遊びができない上バイトや学業のせいで時間は取れないが、残り少ない時間できるだけ彼女のために何かしてあげたいと思った。


「孝明、次どうする?もう帰る?」


「うーん、そうだなあ。まだ時間あるし、もう少しぶらつこうか。本屋でも覗いてみようかな?ちょうど読んでる漫画の新刊が発売してたハズだし。アイリー、大丈夫?」


 アイリーは嬉しいのか首を縦に素早く振る。

 まるで犬がしっぽを振っているようでかわいらしいと思ってしまう孝明であった。


「じゃあ行こうか。」


 アイリーを連れて本屋へ行こうとすると自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。


「あっ。孝明!あんた何してんの!?」


 それは孝明の彼女の花泉茉莉花であった。


「あ・・・。茉莉花・・・。」


 孝明は何か悪いことをしていた訳ではないのだが、きまずく思う。

 事情を知っているとはいえ、他の女の子を連れて歩いているのを見られたからだ。


「買い出し・・・って感じじゃなさそうね。何?そのオモチャとお出かけって訳?」


 オモチャとはおそらく茉莉花の視線の先にいるアイリーのことだろう。

 孝明はアイリーをオモチャ呼ばわりされ少々怒りを感じる。

 彼女はそんな風に呼ばれても気にしないと思うが孝明はいい気がしなかった。

 だが孝明は我慢をし反論せずにいる。


 茉莉花は二人をしばらく見つめると不気味な笑みを浮かべ孝明に声をかける。


「ねえ、孝明。少し付き合ってよ。アイリーだっけ?あんたも一緒に。」


 孝明は『どういうつもりだろう』と思いつつも茉莉花の提案を呑むことにした。










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