第15話 虐げ

 街中で出くわした花泉茉莉花はないずみまりかの提案で彼女と藤井孝明ふじいたかあき、そしてアイリーの3人で一緒に街中を歩くことにした。

 すると茉莉花は喫茶店に入ろうと言い出し、入店する。

 3人は席に座り店員を呼び注文をしようとする。


「あたしメロンソーダー。」


「じゃあ・・・僕はコーヒーで・・・。」


 店員が茉莉花と孝明の注文を聞き、アイリーの方を尋ねようとする。


「そちらのお客様は・・・?」


「ああ、この子はいいの。今は何か飲みたい気分じゃないんだって。」


 茉莉花が間に入り店員に伝える。

 アイリーは飲み食いなどできないのだから何か頼める訳がなかった。


「では、メロンソーダーとコーヒー、以上でよろしいでしょうか?」


 茉莉花が『いいよいいよ』と言い店員が立ち去る。


「で、何の用だよ?わざわざ喫茶店にまで来て。」


 孝明が尋ねると茉莉花は淡々と返答する。


「ん~?別にぃ。ただなんとなくあんたとお茶したいって思っただけ。それとも付き合ってる者同士用がないと会っちゃだめなの?」


「別にそんなことは・・・。」


 通常なら彼氏彼女が道でばったり会えばその流れでどこかでのんびり過ごしたりすることもあるだろう。

 しかし孝明と茉莉花の場合、そんなのとは程遠い関係であった。

 茉莉花は好きな人と出会って一緒に過ごしたいなどと言いだすタイプではなかった。


「ところでさあ、孝明。サークルに復帰するつもりはないの?あんた元々英語の勉強したくてあそこに入ったんでしょ?」


「え・・・?いや・・・バイトとの掛け持ちがきついから・・・。だから英語は独学でやることにするよ。」


 突然脈絡のない話題に孝明は戸惑ったが、答える。


「英語なんて教科書読んでたって身に付かないってえ。実際誰かと話しながらの方が効率いいって。ところでさあ、サークルに吉田っていたじゃん?あいつ英語しゃべる時『I am like cake』とか言ってんだよ。何話す時も『I』の後に『am』つけてさあ。何年英語勉強してんだよって感じだよねぇ。」


 吉田とは孝明の入っていた英語サークルの部員の人である。

 彼は英語を覚えたいと思っていたが、正直得意ではなかったようでなかなか覚えられないでいた。

 しかし茉莉花の態度は目に余るものがある。

 彼は彼なりに頑張っているのにそんな言い方ないだろうと孝明は思っていた。


 そしてアイリーは何もせず黙々とただ座って待っていた。

 孝明達のサークルどころか大学の内情すら知らないのだから当然だろう。

 アイリーは蚊帳の外といった感じで置いてきぼりにされていた。


 茉莉花がひたすら孝明と茉莉花にしか分からない話題を話し、注文した飲み物を飲み終える。すると茉莉花が席を立つ。


「そろそろ行こうか。あ、ここは割り勘でいいわよ。」


 孝明はやっと終わったかあとホッとしつつ席を立つ。

 そして支払いを済ませ店を出る。


「じゃあ俺たちはこの辺で。またな。」


 孝明はそう言ってアイリーを連れて帰ろうとすると茉莉花が呼び止める。


「ちょっと待ちなよ。まだ行くとこあるんだから。」


 孝明はゲッという感じで立ち止まる。


「まだ・・・どこか行くつもりなのか?」


「『行こうか』とは言ったけど、『帰る』だなんて一言も言ってないでしょ。それとも自分の彼女ほっぽっといて帰るつもり?」


 孝明は困り果てて躊躇うが彼女の要求を呑むことにする。


「分かったよ。どこへ行くつもりなんだ?」


「そうこないとねえ。次行くとこはねえ・・・。」








 すると茉莉花は孝明とアイリーを連れて行く。到着したのは銭湯であった。


「せ・・・銭湯!?そんな、いきなり・・・!何考えてんだよ!だいたい、何の用意も持ってきてないぞ!」


「いいじゃんかあ。急に入りたくなったんだから。ここ、シャンプーやボディーソープも置いてあるしタオルも無料で貸し出ししてるから大丈夫だって。まあ着替えは家に帰ってからになると思うけど。」


 茉莉花が一体何を考えているのか分からなかった。

 いきなり付き合ってほしいと言い出したと思ったら喫茶店でひたすらしゃべってるかと思ったら今度は銭湯に行こうなどと。

 しかし、それより問題はアイリーだった。彼女が銭湯に入れるはずがない。


「あ、アイリーちゃんもお風呂入るのかな?防水加工とかされてるのぉ?」


 アイリーは首を横に振る。


「博士が私を主に人命救助用として開発したけど、そこはまだできてないって言ってた。入れたとしても入らない方がいいと思う。顔と腕と足は見た目は人間と変わらないけど、身体は見たら作り物ってすぐ分かる仕上がりだから。」


(こいつ、分かってて聞いてるんじゃ・・・)


 孝明は段々と怒りを覚えてきた。

 まさかアイリーへの嫌がらせのために先程から自分たちを引っ張りまわしてるのでは?と。

 アイリーが食事を取れないのをいいことに飲食店に入ったりお風呂に入れないのを分かってて銭湯に連れてきたりと・・・。


「じゃあしょうがないねえ。じゃあ、悪いけどここで待っててね。孝明、じゃあ後でねえ。」


 孝明は少しその場で呆然としていたが、気を持ち直して銭湯に入ることにした。


「ごめんなアイリー、ちょっと待っててくれるか?」


「うん。孝明、いってらっしゃい。」


 孝明はアイリーに挨拶すると銭湯へと入って行く。

 









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