第13話 お出かけ

 花泉茉莉花はないずみまりかとのデートが終わってから2日後、藤井孝明藤井孝明は大学を終えて家に帰宅する。

 今日は午後の講義が2時半には終わりバイトがないので早く帰ることができた。


「おかえり、孝明。」


「ただいま、アイリー。」


 このやりとりもいい加減慣れてきた。

 だが、この会話ができるのも後一カ月切っているのである。

 孝明はこのまま彼女に家事をしてもらっているだけでいいのだろうか。

 何もせずに彼女と別れていいのだろうかと思うようになっていた。

 彼女の世話になっているお礼も一カ月ほど前にビーズで作った黒猫のブローチをプレゼントしたくらいである。

 彼女と何か思い出を作りたい。

 そう思った孝明はアイリーに提案することにした。


「アイリー、今から出かけないか?」


 アイリーが孝明の方を向く。


「孝明、何か買うものがある?夕飯の買い出しとか?」


「いや、そういう訳じゃないんだ。ただ、アイリーと一緒にどこか行きたいなあって思っただけだよ。」


 アイリーは相変わらず無表情であったが、少し驚いているようにも見えた。

 あまり自分のことを連れまわしたくないように思っていたであろう彼がまさかそのようなことを言い出すとは思ってもいなかったのだろう。


「でも孝明、大丈夫?私出歩くと孝明や博士に迷惑かからない?」


「きっと大丈夫だよ。そろそろ例の交通事故の件の熱も冷めてるだろうし、元々君の写真とかが上がってた訳でもないし。」


 根拠があった訳ではないが、孝明は楽観的に考えるようにしていた。

 いつまでも世間様にビクビク怯えてアイリーを閉じ込めておくのもよくないと思った。


「それにさ、もう君といられる時間もそんな長くないだろ?だから君との思い出を今からでも作っておきたいんだよ。」


 そう言うと孝明はアイリーに近づき続ける。


「アイリーは外の世界に興味ない?最初のころ買い物行くとき一緒に行きたいって言ってたし。」


 アイリーはあの日以来買い物に付いていきたいと言わなくなっていた。

 おそらく自分がついていくと孝明に迷惑がかかると思ったのだろう。

 そのため生活必需品の買い物はずっと孝明一人で行っている。


「・・・うん、行きたい。孝明と一緒にお出かけしたい。」


「よし、じゃあ行こうか。」


 孝明はアイリーを連れて外出し始める。








 外へ出た孝明とアイリーは街中をぶらつく。


 二人はしばらく歩くと孝明はアイリーに尋ねる。


「アイリー、どこか行きたいところある?」


「私、この世界にどういう楽しいのがあるのか分からない。どこ行ったらいいか分からない。だから孝明。孝明が連れて行って。孝明の行きたいところ、孝明の好きなところ。私、孝明がどういうものに興味あるのか知りたい。」


 孝明はそれを聞き嬉しく思い笑顔で答える。


「じゃあ雑貨屋さん行こうか。この近くに有名店があるんだ。」


 そう言うと孝明はアイリーを連れて向かう。

 

 二人は目的地に向かって歩くが、孝明はふと思うことがありアイリーに尋ねてみる。


「そういえばアイリーの外見ってすごい精巧に造られてるけど、誰かモデルとかいるの?」


「うん。研究員の誰かがすごいかわいい外国の子っぽい女の子を見たことがあって、その子を参考にしたって話してるの聞いたことある。どこの誰だかは分からないけど。」


「へえ、どんな子か一度会ってみたいよね。」


 そう孝明が反応するとアイリーは孝明の顔をじっと見つめながら聞く。


「・・・孝明。その子に興味ある?」


「え・・・!?興味というか・・・!別に変な意味じゃないよ!ほら、行こう!」


 別にやましい意味があった訳ではないが、孝明はなぜか挙動不審になりながら答えてしまう。








 しばらく歩くと二人は目的の場所へと到着する。そこは主に動物関連のグッズを販売していた。

 犬や猫はもちろん、色々な動物のアクセサリーやぬいぐるみ等が並べられている。


「やっぱいいなあ、ここ。ここに来るとほんとに癒される。ってやっぱり変かな?男がこういうところ来るの。」


 孝明の呟きにアイリーが答える。


「男も女もかわいいの好き。作り物でも生き物好きなのいいこと。」


「それってデータかネットの情報?それともアイリーの感想?」


「うーん・・・。よく分からない。」


 アイリーは基本的に自分の中のデータかネット回線を通じて得た情報を元に発言したり行動したりしているハズだが、今のが分からないとなるとアイリーが自分で考え発言しているということなのだろうか。

 孝明は色々疑問に思ったが、ひとまず置いておくことにした。


「アイリー、何か欲しい物ある?あんまり高いものは厳しいけど。」


 アイリーは首を横に振る。


「ここにあるものかわいいものっていうのは分かる。でも・・・私、孝明が作ってくれたやつがいい。」


 アイリーが言っているのは孝明が以前プレゼントした黒猫のブローチのことなのだろう。

 彼女は物自体より誰が作り誰からもらったということのが重要なのだろう。


「そっか。また作らなきゃね。」


「うん。でも無理はしないで。」


 孝明は『分かった』と言い次別の所へ行こうと誘う。








 次はゲームセンターへと向かう。

 孝明も言うほどゲーマーという訳ではないのだが、茉莉花とよく一緒に来ていたし気楽に遊ぶとなるとここがいいと思った。


「孝明。ここ、どういうところ?すごい色んな音聞こえる。」


「ゲームセンターだよ。色んなゲームが置いてあるからお金を入れて遊ぶんだ。」


 アイリーが不思議そうに見渡していると孝明が質問する。


「でもアイリー、君なら検索してすぐにどういうところか分かったんじゃない?」


「普段からなんでもかんでも調べて情報収集してる訳じゃないし、場所だけ見ても名前分からないと調べられない。画像検索機能使えば分からなくないけど、まだ完璧じゃないし完全一致難しい。」


 言われてみればそうかと孝明は納得する。

 たしかにいくらあらゆる情報を得られるとはいえ自分から調べなければ何も出てこない。

 彼女にはこういうところを知る機会も調べる機会もなかっただろう。

 そうでなければ彼女が家に来た初日も料理も完璧にできていたはずだ。


「じゃあ中に入ろうか。」


「うん。」


 二人は店内の奥へと進む。



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