第10話 事件
アイリーが前日に『博士が明日予定がなければ近況報告をしに来てほしいって言ってた』と伝えてきたのだ。
どうやら彼女の中にメールや電話のような機能がついていてアドレスや電話番号のようなものを入力すればアイリーにメッセージを送ることができるらしい。
それでアイリーに伝言を頼んだようだ。
アイリーを通してある程度の情報は得ているが、当事者から直接様子を聞きたいと呼んだようだ。
本当は今日は日曜で
「で、彼女と一緒に暮らしてどうかね?」
成瀬は孝明に質問を投げかける。
「どうと言われると答えるが難しいですけど・・・。すごく助かってますよ。主に家事をやってもらってますけど、料理なんて自分で覚えて次々と新しいものにチャレンジしてますよ。」
孝明が答えると成瀬は少し間を置き再度質問する。
「・・・何かトラブルが発生したとかそういうことはないかね?」
唐突な質問に孝明は少し驚く。
「え・・・?特にそういうのは・・・ないですかね。あ、でも初日は料理大失敗してましたね。今の彼女を見てるとなんであんなミスをしたのか信じられませんよお。」
孝明はなぜ成瀬がそのような質問をしたのが少し疑問を持ちつつ笑いながら話すが、成瀬の表情は真剣なままであった。そして安堵の顔を見せ『そうか。』と答える。
孝明は前々から疑問に思っていたことを成瀬に聞く。
「あの・・・。ここって他に研究者の方はいないんですか?どう見ても一人でいるのには広すぎると思うんですけど・・・。」
孝明の質問を聞き少し間をおくと成瀬は答える。
「いたよ、たくさん。ある事件をきっかけにみんな辞めていってしまったんだ。」
「ある事件というと?」
「君は知らないかね。半年ほど前にここで殺人事件があったのを。」
成瀬の言葉に孝明はピンとくる。
「あ、知ってます。たしか研究員の一人が急に暴れ出して同僚を一人殺したって事件ですよね?ここのことだったんですね。」
「社員の一人が自分の無茶な要求を普段からし出してたんだが・・・。その意見が通らずにいてばかりだったので怒りを募らせていたんだろう。それがある日、臨界点を超えたのか突然暴れ出して一人の同僚に襲い掛かってきたんだ。」
「でもたしか犯人は建物から逃げようとして車にはねられて死亡したって聞きましたけど、なんでそれでみんな辞めていっちゃったんですか?また誰かが同じ暴走を起こすって思って怖くなったってことですか?」
「・・・まあ・・・そんなところだな。」
成瀬はなにやら言いよどんでいる様子だったが、答える。
孝明は何か様子がおかしいと思いつつあまり追究するのも悪いと思いこれ以上聞かないことにした。
「あの・・・。また来週くらいに報告に来たらいいですかね?日曜日はバイトも休みしてもらってて、知り合いからの誘いとかがなければ行けると思うんですけど。」
成瀬は孝明の質問に答える。
「いや、そんな何度もわざわざ足を運んでもらうのも煩わしいだろう。私のメールアドレスと電話番号だ。君も忙しいだろうから普段は1週間に一度簡単でいいから定期連絡を入れてくれるだけでいい。もし何かあったらいつでも連絡してほしい。最初からこうするべきだった。」
成瀬は自分の電話番号とメールアドレスを記載した紙を孝明に渡す。
「ありがとうございます。何かあったら連絡します。それじゃあ、僕はこれで。」
「ありがとう。彼女のことをよろしく頼むよ。」
「よろしくされるのは僕の方かもしれないですけどね。」
孝明は冗談めいてそう答えると研究所を後にする。
孝明は家に帰宅するとアイリーが出迎えてきて部屋へと行く。
特に何かすることがあった訳ではないので、cサブスクで映画でも観ることにした。孝明はPCを立ち上げ映画を視聴し始める。
ジャンルは恋愛もので何度か観たことのある作品だったが、孝明はこの映画が一番気に入っている。
「孝明、何観てる?」
「ん?映画だよ。恋愛ものの。僕これ好きなんだ。」
アイリーは反応を示さなかったが、少し間を置くと孝明に再度聞く。
「孝明、私も観ていい?」
孝明は驚いた。アンドロイドでもこういうのに興味を示すものなのだと。
「じゃあ二人で観ようか。ちょっと待って。観やすくするから。」
孝明はそう言うとパソコンを机から卸し床に置く。そして椅子に座るのをやめ、床に腰を卸し見始める。
そしてアイリーも隣に座り一緒に観賞し始める。
アイリーは黙々と無表情で映画を観ており何を感じているのか気になり孝明は質問する。
「ねえ。アイリーは恋愛映画とか興味あるの?」
孝明の質問にアイリーは首を横に振る。
「私、好きとか嫌いとかよく分からない。人間の恋愛って言うのもよく分からない。」
考えてみれば知識系統の情報なら調べれば彼女でも分かるだろう。
だが恋愛のような人間の心理描写のような明確な表記がないものに関してはアイリーは理解しがたいものであろう。
「でも・・・孝明が好きって言ってたから、どんなものか知りたいって思った。」
孝明はアイリーのその言葉を聞き、何も言わずに微笑み映画を一緒に観続ける。
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