第11話 変化
アイリーと生活するようになり1カ月ほど経った。
大学の講義の2限目が終わり
すると後ろから友人の
「よお、今から飯か?一緒に食わねえ?」
「悠真。うん、学食に行こう。」
二人は学食へと向かう。
悠真は学食で食事を頼むことにしたが、孝明は持参した弁当を鞄から取り出し食しようとしていた。
二人は食事を始めると悠真が孝明に話しかける。
「なあ、孝明。お前、最近何かいいことあったか?」
「え?いや、特にないけど・・・。なんで?」
「いや、なんかさ。憶測だけど最近明るくなった気がするんだよ、お前。前まではちょっといつも重い空気ただよってる印象あったんだけど、今はなんか顔もウキウキしてて声のトーンもなんか元気がいい感じがするんだよ。」
心当たりはあった。おそらくアイリーのおかげだろう。
彼女には家のことをしてもらい、更に色々と話相手にもなってくれる。
感情表現はまだ普通の人間とはほど遠いものであったが、全くないというほどでもないしプレゼントを渡した時のようにあんな風にアンドロイドとは思えない天使のような笑みを見せてくれるのではと期待していた。
彼女の存在が彼の支えになっているのだろう。
「いや、特に何もないかなあ。いつも通りだよ。いつも通り。」
孝明は良心が痛む。
大学で一番親しい悠真に隠し事をするのは正直辛いが、あまりアイリーのことをべらべらしゃべると
悠真なら内緒にしておいてほしいと言えば言う通りにしてくれるだろうが、それでもあまり公にしない方がいいだろうと思った。
「そうなのか。いやさ、その弁当も・・・。なんかいつも腹膨れたらなんでもいいみたいな・・・言い方悪いかもしんないけど適当って感じだったのに、最近のお前の弁当まるでデキのいい彼女かおふくろさんが作ってくれたみたいで本格的って感じだし。」
最近の孝明の弁当はアイリーが作ってくれていた。
彼女の料理の腕はますます磨きがかかり、出来がよくなっていた。
彩りもよく、栄養バランスや味の配慮もしっかりされていた。
孝明が作っていたとりあえず冷蔵庫にあったものを適当に炒めて詰め込むというものとは天と地ほどの差があった。
「まさか・・・
「ハハっ、まさかあ。自分で作ったんだよ。もうちょっとちゃんとした弁当作った方がいいかなあって思って。」
「だよなあ。あいつがそんなことする訳ないもんなあ。あ、いやわりぃ。人様の彼女を
孝明は『気にすんなよ』と嘲笑しながら言う。悠真はけっこうするどいところがあるため、そういう意味では付き合いにくい相手であった。
うっかりしているとすぐ隠し事がばれてしまいそうである。
「・・・なあ。お前このままでいいのか?」
「え?何が?」
「花泉のことだよ。なんかお前・・・あいつと無理して付き合ってるように見えてさ・・・。なんか恋人っていうより利用する側と利用される側って感じだぜ。あいつ、お前の事いい奴隷くらいにしか思ってないんじゃないのか?学生が買うには高すぎるものばっか要求するしさあ。」
孝明はその言葉にぐさっときてしまった。
たしかにその通りなのである。
孝明が思い描いていたカップルとは程遠い関係にあった。
最初こそいい感じで楽しく話をしたり一緒にお茶をしたり出かけたりしていた。
しかし最近の彼女は目に余るものがある。
自分のために日曜日は絶対開けておけと言うが、その割には途中で帰ったり朝一でキャンセルの電話をしてくることもしばしばあった。
悠真が言うようにやたら高い物を要求してくるのも正直きつい。
最近は断ることも多いが無理であることを伝えると露骨に機嫌を損ねるしかといって他のプレゼントでは代用がきかない。
話をしていてもこちらの話には興味ないと言わんばかりに素っ気のない反応しかしない上、ひたすら自分の話したいことだけを延々と話す。
果たして彼女は自分のことを好きなのだろうかと疑問に思う。
黙り込んでしまった孝明に何を言おうか悩んでたいた悠真だが、とりあえず何か話そうと思い続ける。
「まあ、最終的にどうするかはお前らが決めることだけどさあ。お前あんまり不満とか募らせても言えないタイプだし、このままだとボロボロになるまでこき使われるんじゃないかって・・・。」
孝明は前々から自分が思っていることを悠真に突き付けられ困惑する。
確かに孝明は言いたいことがいえないタイプだからというのもある。
だが、それだけではなく茉莉花との最初の関係は悪くないものであった。
あの時のようにまた戻れないだろうかと期待があるせいでもあるのだろう。
果たして自分は一体どうするべきなのか。
このまま彼女と付き合っていていいのだろうかと悩み続けている。
「・・・うん。今すぐ結論は出せないだろうけど、ちょっと考えてみるよ。」
孝明の言葉を聞き、少しほっとする悠真であった。
「そうか。悪かったな。他人の俺がづかづか首突っ込んで。」
「いや、心配してくれて嬉しいよ。ありがとう。」
孝明は心からそう思っていた。
自分のことを考えてくれている人間が身近にいることに心底感謝する。
「そろそろ次の授業が始まるし行こうか。」
「おう。俺次心理学だからあっちだわ。じゃあまたな。」
孝明と悠真はそれぞれ自分たちの受ける講義へと向かう。
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