エピローグ3(最終話)
孝明はリリーに目的地を尋ねることにした。
「それじゃあ、リリーはどこか行きたいところある?」
「そうねえ。この辺にデパートとかあるかしら?知っておいたら何かしら買い物するのに便利だろうし、この辺巡る時の拠点になりそうだし。」
「それならここから少し離れたところにあるから行ってみようか。」
孝明は方角をリリーに示しそちらに誘導する。
リリーは言われた方へ向かい、孝明と悠真は彼女についてゆく。
道中悠真が孝明に小声で質問を投げかける。
「なあ孝明。なんでこの子のガイドをやろうだなんて言い出したんだ?」
「え・・・!それは・・・その・・・。」
「・・・やっぱりこの子がアイリーちゃんと瓜二つだからか?」
「・・・うん、その通りだよ。」
「まあ、気持ちは分かるぜ。俺も最初見た時アイリーちゃんが実は生きてたのかって思っちゃったもんなあ。」
アイリーは以前言っていた。自分をモデルにした人間が現実にいると。
アイリーにそっくりなリリーを見て彼女がまさかそうなのではないかと孝明は思っていた。
だが本当に彼女がそうなのかどうか分からないし、確認する術はない。
本人に聞いてもアイリーのことなど全く知らないだろう。
仮にアイリーのモデルが彼女だったとしても、どうしようと言うのだろうか。
アイリーはアイリー、リリーはリリーであり全くの別人である。
アイリーが帰ってきた訳ではない。
「僕はまだ・・・アイリーに未練があるのかもしれないな・・・。はは・・・情けないな。」
「んなこたねえよ。そんだけお前にとってあの子は大切な存在だったってことだろ?笑いやしねえよ。」
二人がこっそり話をしているとリリーが睨むようにこちらを見ていた。
「ほら、お兄さん。道二手に分かれてるけど、どっち行ったらいいの?早く教えなさいよ。」
「え・・・?ああ、ごめんごめん。ここを右に曲がればいいんだよ。ここをまっすぐ行けば見えてくるから。」
孝明が道を教えていると悠真が口を挟む。
「いや・・・でもリリーちゃんさあ。もうちょっと口の聞き方ってもんがあるんじゃねえのか?こっちから提案したとはいえ付き添いしてあげてんだし。」
「何よ。案内するって言ったのはこっちのお兄さんでおじさんには頼んでないでしょ!あなたなんかついてこなくていいわよ!だいたい『リリーちゃん』って馴れ馴れしいってさっきも言ったでしょ!」
「だからなんで俺だけおじさんなんだよ!いい加減やめろって!」
「ふん!初対面の女の子にセクハラ発言する男なんておじさんでもおつりが来るわよ!なんなら今すぐにでも不審者が付きまとってくるって警察に連絡してやろうかしら!?」
「い・・・いや!それはマジで洒落にならんから勘弁してください!」
「だったら黙ってついてきなさいよ、ばーか。」
悠真は怒りを抑え大人しくすることにした。
そして小声で孝明に話しかける。
「なあ、孝明。俺あいつ嫌いだわ。あいつがアイリーちゃんのモデルだなんて考えたくもないぜ・・・。アイリーちゃんは・・・アイリーちゃんはもっと優しかったぞ!!」
「いや、参考にしたって言っても性格までそうかは分からないし。だいたいお前にだって非はあるぞ。リリーが怒るのも無理ないって。」
孝明はリリーはあくまでリリーであってアイリーとは全くの別人で無関係。
そのように割り切ろうと思うのであった。
しばらく3人は歩くと目的のデパート近くまで到着し、孝明がその場所を指さす。
「ほら、あれがそうだよ。多分この辺で一番大きいんじゃないかな?」
リリーはそのデパートをしげしげ眺める。
「ふうん。けっこういいところね。駅からもそこそこ近いし。」
「どうしようか?せっかくだから中に入ってみる?」
「そうね。ちょっと買いたい物もあるし、もうお昼だから何か食べてこうかしら。」
「そうだね。僕らもちょうど何か食べようと思ってたんだ。よかったら僕がおごるよ。」
「そう?じゃあそうしてちょうだい。」
「お前・・・遠慮ってものがないのな・・・。」
悠真が横からあきれ顔で突っ込む。
3人はデパートに向かって歩こうとした。
するとその時猫が道路のど真ん中に居座っているのに気づく。
そして車がこちらに向かって走ってこようとしている。
皆車が来れば猫が自分で避けるものだと思っていた。
しかし何故か猫は車を避けようとする気配がない。
(おいおい。まずくないか?)
孝明はそう思い猫を助けるため駆け走ろうとする。
だがその前にリリーが猫に向かって走っていた。
リリーは猫を抱え逃げようとするが、車はすでに目の前に来ていた。
リリーは戸惑い逃げ遅れてしまう。
だが、そんな中孝明がリリーを抱え道路脇に避ける。
車はクラクションを鳴らしがら走り去る。
リリーと孝明は倒れたまま動かないが、しばらくすると二人は起き上がる。
そして悠真が二人の元へと駆け寄る。
「おい、大丈夫か!?ったく、あの車ビッビーじゃねえよ!お前こそ目の前に人がいるんだから減速しろっての!」
悠真が走り去った車の運転手に文句を言っているが、孝明とリリーは気にせず介抱した猫の様子を見る。
「大丈夫だった?怪我はない?」
リリーは優しく猫に声をかける。
猫は少し弱弱しい声で鳴く。
よくみると足を負傷していることに3人は気づく。
「なんだ、この子足怪我してるのか。それで逃げなかっ・・・いや、逃げれなかったのか。」
孝明がそう言うとリリーが猫を抱きかかえ立ち上がる。
「ねえ、お兄さん。この近くに動物病院ってある。私、この子連れていかなきゃ。」
そう言われた孝明は笑顔でリリーの問いに答える。
「ここから先進めばあるよ。デパートは通り過ぎちゃうけどいいかな?」
リリーは小さく頷く。
「今日はもうこの辺巡るのはまた今度でいいわ。今はこの子をなんとかするの考えたいから。」
「・・・そっか。治療費は心配しなくていいから。僕と悠真が出すから。いいか、悠真?」
それを聞いた悠真は頭を掻きながら致し方ないといった様子で答える。
「はあ・・・。昼飯食べ損ねるわ余計な出費かさむわで踏んだり蹴ったりだなあ・・・。ま、しゃーねーか。」
「あ・・・ありがと・・・。」
そう言いながら3人は動物病院に歩いて向かう。
その傍らで孝明はリリーを見ながら昔のことを思い出す。
(アイリーと初めて会った時も車に轢かれそうになった子を助けようとした時だったなあ。あの時と違って僕が彼女を助ける形になったけど)
孝明は自分の身を挺して野良猫を助けようとするリリーにアイリーの面影を感じた。
リリーは孝明がこちらを見ていることに気づき尋ねる。
「な・・・何よ。ジロジロ見て。」
「・・・いや、リリーは優しいなあって思って。」
その言葉を聞きリリーは顔を赤く染めそっぽ向く。
「し・・・知らないわよ!」
孝明は微笑みリリーに尋ねる。
「ねえ、リリー。」
「な・・・何よ?」
「リリーがよかったら、また今度一緒にどこか遊びに出かけようか。」
「・・・考えとくわ。」
彼女がアイリーと接点があるかどうかは分からない。
だがたとえ無関係でもこの優しい少女を大切に見守ってあげたい。
そのように思う孝明だった。
- FIN -
ピグマリオンコンプレックス 人形を愛する者 キュー @kyu_illust
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