第19話 友達
久々に会おうと茉莉花の方から誘ったようだ。
しかし正直真由の方は茉莉花に会いたいとは思っていなかった。
しかし茉莉花の態度は段々と態度が豹変してきて、最初の頃の面影など見られずもはや別人なのではとまで考えてしまうようになっていた。
孝明の時のみたいに高い物をねだるというようなことはしないが、それ以外は似たようなもので真由の話には全く興味を示さず自分のしたい話だけをひたすらしているだけであった。
しかも人の陰口や恥部を晒すといった話が多い。
その上真由が会ったことのない茉莉花だけが知っている彼女の大学の人間の話なので誰の話なのか分からず真由にとって拷問に近い状態であった。
なんで自分はこのような人間と付き合っているのだろうと自問自答してしまう真由であった。
「ははは!あいつのドジっぷり、まじ受けるわあ。ねえ、あんたもそう思わない。」
「う・・・うん。そう・・・だね・・・。」
こっちは全く楽しくないし楽しくなさそうな雰囲気を出しているつもりなのだが、他人に興味関心が全くない茉莉花はそのことに気づくことなど決してないだろうと思っていた。
早く帰らないかなあと思う真由だったが、その気配が全くなく疲労困憊状態であった。
「あ・・・私、飲み物取ってくるね。・・・茉莉花の分も持ってくるから。」
「お、サンキュー。あたしもちょうど何か飲みたいって思ってたんだよね。」
真由は席を立ち部屋から出てキッチンへ向かう。
別に何か飲みたかった訳ではないのだが、今は茉莉花から離れたいと思って口実を作っただけであった。
真由は気を重くしたまま冷蔵庫からジュースを取り出し部屋へ戻る。
茉莉花は暇つぶしに真由の部屋を物色し始める。
礼儀など知らない彼女はそういうことで躊躇うことなどなく、机の引き出しを勝手に開けたり平気でいじりまわしていた。
「なんかあの子面白いもん持ってないかなあ。」
そして茉莉花の視界に真由のパソコンが映る。
どうやら学校に出すためのレポートを作成していたようだ。
かなりの長文か書かれておりおそらくほぼほぼ終わりがけなのだろう。
「あー、あの子課題やってたんだ。よくやるわ、こんなの。」
そしてパソコンをいじりだす。
適当にマウスをクリックしていると画面上に文章が浮かびだす。
『BOOK1の変更を保存しますか?』
「何これ?まあ『いいえ』でいいや。」
パソコンのことをあまりよく知らない茉莉花はよく分からず『いいえ』を選択してしまう。
画面は閉じレポート画面も消えてしまう。
「あら?消えちゃったわ。」
そうしてる間に真由が部屋へ戻ってくる。
「おまたせ。ん?茉莉花、何してるの?」
机の上のパソコンの前で立っていた茉莉花を見て気にする真由。
そしてパソコン画面を見て青ざめる。
「・・・ちょっと!何してるの!?」
急いでパソコン画面の前へ走り出す。
その画面には茉莉花が来る前に書いていた学校への課題レポートが映っていなかったのだ。
「茉莉花!あんた勝手にいじったの!?」
「う・・・うん。ちょっとね。でも壊した訳じゃないんだしそんな慌てなくても・・・。」
茉莉花が言い切る前に真由は質問攻めする。
「保存は!?ちゃんと保存して閉じたんだよね!?」
「え?なんかよく分かんない文章出てきて『いいえ』ってやつ押したら消えたけど・・・。」
真由は嫌な予感がし急いでパソコンの中のフォルダを調べる。
しかしその中には自分が書いていたレポートは存在しなかった。
「保存せずに消したの!?」
「わ・・・悪かったって。でもまた書けばいいじゃん。」
「明日提出なのよ!今日朝から一日かけて作ったのに!!今からじゃ・・・間に合わない・・・。」
真由は泣きそうな声で言うが、茉莉花は反省することなく反論する。
「あんたねえ!そんな大事なレポートならなんで保存しておかなかったの!?人のせいにする前に自分の落ち度を改めるべきじゃないの!?」
確かに定期的に保存しておかなかった自分にも非はあり茉莉花の言っていることはまんざら的外れという訳ではなかったが、彼女がパソコンを勝手にいじらなければこんなことにはならなかった訳であるし、第一それが原因である人間の言うことだろうかと思った。
謝罪すらしない茉莉花に言いたいことはたくさんあったが、真由にはもはやその気力もない状態であった。
「う・・・うう・・・。」
真由は泣き崩れてしまう。
茉莉花も流石にいたたまれない状態だったのか自分の荷物を持ち部屋の入口に立つ。
「じゃああたし帰るから。まあ課題くらい出さなくたって大丈夫だって。じゃあね。」
茉莉花は真由の家を出て帰宅する。
真由はもはやどうしたらいいのか分からず怒る気力もなくそのまま泣き続けていた。
将来を左右する大事な提出物であったのに、それを茉莉花が全て台無しにしてしまったのであった。
「うう・・・。ひどいよ・・・。私・・・どうしたらいいの・・・。」
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