第32話 望み
アイリーと
金属バットをを持った茉莉花、そして倒れているアイリー、そして先ほどの轟音。何があったのか一目瞭然だったからである。
「茉莉花・・・。お前・・・何やってんだよ・・・。」
孝明は分かっていながらも茉莉花の口から聞きたいと思い問う。
「・・・はんっ!見ての通りよ!こいつに然るべき制裁を下してるところよ!!あたしの人生滅茶苦茶にしてくれたこの疫病神をね!!」
その言葉を聞き孝明は歯を食いしばり両手を握りしめ震えながら答える。
「・・・アイリーが・・・一体何をしたって言うんだよ・・・!」
「孝明、大丈夫。私は平気だから。」
そう言いながら立ち上がるアイリー。
たしかに多少の傷はついているものの重傷といえるようなダメージは負ってはないようだ。
しかし孝明は彼女が茉莉花の持っている金属バットで何度も殴り続けられたことを想像すると我慢ならなかった。
「こいつはね・・・あたしから最後の望みすら奪っていった疫病神なんだよ!友達、家族を失ったあたしから・・・ね・・・。」
「・・・!」
孝明は絶句しているが、後ろから悠真が割り込むように聞く。
「花泉・・・一体何があったんだよ。」
茉莉花は少し間を置くと、自分に起こった出来事を語り始める。
「もうずっと前から・・・誰を誘ってもあたしと付き合おうとしないのよ。そして
「・・・!」
悠真も言葉が出てこない。
いつか茉莉花の周りの人間がそのように言い出す日が来るとは思っていた。
それが現実となり彼女にどのように声をかければいいのか分からなかった。
「それで・・・。イライラしちゃってつい・・・家族に手出して怪我させちゃった・・・。それで家追い出されたのよ・・・。」
友人はともかく家族にまで見放されていたのは悠真も予想外であった。
だが、それでも茉莉花の行いを許容することも納得もできなかった。
「それで・・・なんでアイリーちゃんが傷つけられてるんだよ。それとこれとは全く関係ないじゃないか!」
「だから・・・孝明に助けてもらおうって・・・。でももうそこにもあたしの居場所はなかったのよ・・・。このガラクタ人形があたしが本来いるべき場所を独占しやがったのよ!だから奪い返そうとしただけの話よ!!」
悠真は唖然とし茉莉花を非難する。
「お前、自分勝手過ぎるだろ!前々から孝明や他の人らに迷惑かけたり悲しませるようなことばっかして・・・。それでいざ自分が困ったら泣いてすがるとか・・・。世界はお前を中心に回ってる訳じゃねえんだぞ!」
「なんですって!?」
茉莉花は悠真の言葉に反発するが、悠真は続ける。
「前々から言おうと思ってたんだよ。それじゃあいつか周りが離れていっちまうぞって。だけど・・・言いそびれちまった。すまねえ。俺がもっと早く言ってやるべきだった・・・。」
茉莉花はアイリーと同じようなことを言われショックを隠し切れずにいた。
しかし悠真の優しい言葉も茉莉花にはもはや罵倒以外何にも聞こえず、それが茉莉花の怒りを搔き立ててしまう。
「何保護者みたいなこと言ってんのよ!!あんたまであたしが悪いとでも言うつもりなの!?」
「なんで分かんねんだよ!そんなんだからみんなお前と距離を置くようになったんだろ!?いい加減目覚ませよ!!しかもアイリーちゃんをこんなところ連れ込んでタコ殴りとか・・・!お前自分に起こった不幸を全部この子のせいにして怒りぶつけてるだけじゃねえのか!?」
「黙れ!もうあんたと話してても無駄だわ!」
茉莉花は悠真の手前にいる孝明を睨みつけ言い放つ。
「孝明!あんたさっきからだんまりで・・・!なんとか言ったらどうなの!?」
だが孝明は何も言わない。反応がないので茉莉花は続ける。
「あんたもさ。いい加減目覚ましたら?所詮こいつの感情なんて作り物。人間の代わりになんてなれっこない。一緒にいたって不幸になるだけだよ?現実見なよ。」
アイリーはその言葉を聞いて傷ついているのか無表情ではあるがうつむき悲しみを感じているように見える。
孝明はまだ寡黙のままでいるのかと思っていた。
「アイリーは・・・。」
孝明はとうとう口を開き何か話そうとする。茉莉花たちは孝明に注目をする。
「アイリーの気持ちは全部本物だ。一緒にいて不幸になるなんてことはない。・・・僕は・・・これからもずっとアイリーと一緒にいる。茉莉花・・・僕はお前よりアイリーをパートナーに選びたい。」
「なっ・・・!!」
それを聞き周りは驚愕した。悠真と成瀬は前々からそのように思っていたのではないかと察していた。
だが茉莉花にとっては予想外のことであった。
まさか人間の自分よりアンドロイドの女の子を選ぶとは思わず、人形に負けたなどと彼女のプライドが許さなかった。
茉莉花はひるんでしまい、固まってしまう。
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