第31話 仲間の意義

「はぁ・・・!はぁ・・・!」


 アイリーをずっと金属バットで殴り続けていた花泉茉莉花はないずみまりかは荒い息をたてていた。

 しかしひざまついているものの何度も殴りつけられたにもかかわらず、アイリーは平然としている。

 多少の小さな傷はついてるものの、致命傷といえるようなダメージは負わせられていないようだ。

 本来人命救助用として作られた彼女である。

 いくら金属バットを使っているとはいえ、少女の力でたやすく破壊できるほど柔には造られていない。


「茉莉花、気は済んだ?あなたの力ではいくら頑張っても私は壊せない。私、そろそろ帰らないと・・・。」


「・・・うるさい!あんた、このまま帰れると思ってるの!?絶対ただじゃおかないんだから!!」


 茉莉花の怒りが収まる気配がない。

 アイリーはどうしたらいいのか分からず困惑する。

 このまま茉莉花を無視して帰ることもできた。

 しかし茉莉花はアイリーのことをほっておかず家まで追いかけてくるだろう。

 そうなったら孝明たかあきと出くわすことになる。

 今の彼女と孝明を合わせるのは危険だと考えていたのでそれはなんとしてでも避けたかった。


「茉莉花・・・。」


「何が『孝明ともっと一緒にいたい』よ!!人様から男を奪い取るような真似をして!あんた、あいつと一緒に暮らして普通の人間と同じ幸せを送らせることができるの!?」


「・・・・・・。」


 アイリーはうつむき茉莉花の問いに何も答えない。

 黙り続けているアイリーを見て追い打ちをかけるように茉莉花は怒鳴り散らす。


「いくら精巧に造られていると言っても所詮人形は人形!人間の女と同じ生活なんて無理なのよ!!あんたに人間の気持ちを理解するなんてできっこない!!」


 茉莉花の言葉を浴びアイリーは何を思っているのか分からなかった。

 だがアイリーはようやく茉莉花の言葉に反応し問いかける。


「・・・じゃあ・・・私が孝明の元を離れたら私の望みひとつ聞いてくれる?」


「ああ!?何よ、一体!?」


 アイリーは顔を上げ茉莉花に視線を向け言う。


「孝明と別れて。」


「・・・・・・はあっ!!?」


 いきなりのアイリーの要望に怒りがこみあげてくる茉莉花。

一体どういう意味なのかといった感じで問うようにアイリーを睨みつける。


「あなたの話をしている時や一緒にいる時の孝明全然楽しそうじゃない。それどころか何か苦しそうな感じがする。だからもう孝明に関わらないでほしい。あなたに彼を任せられない・・・。」


 アイリーの言葉を聞き歯を食いしばる茉莉花。

 怒りを抑えることなどできず喉が掻き切れそうな声でアイリーに噛みつくように言う。


「ふっ・・・ざけんなあぁぁー!!あんた何様のつもり!?しかもあいつなら分かってくれるから改心しろって言ったかと思ったら今度は関わるなとか・・・!!」


「茉莉花、いくら言っても分かってくれないから致し方ない。それならもう孝明と縁を切ってもらうしかない・・・。」


 アイリーはそう言うが、茉莉花が従う訳もなく更に怒りを現す。


「人様に別れろとか勝手な事ぬかして!!一体何の権利があってそんなこと言ってんの!?あんた保護者かっつーの!!あたしが誰と付き合うかなんて個人の自由でしょうが!!」


「・・・あなたはなぜそんなに孝明と一緒にいたい?私にはあなたが孝明のことを愛してるとは思えない。」


「・・・あ゛あ゛っ!?」


 アイリーは茉莉花の怒鳴り声にかまわず続ける。


「あなたは孝明が好きで一緒にいるんじゃない。自分には自分に貢いでくれる恋人がいるというブランド物でも身に着けている気分に浸りたいという虚栄心からきているもの。孝明だけじゃない。友達も自分にはこんなにもたくさんいるという見栄のために作ろうとしてただけ。私には・・・そう見える。」


「・・・・・・!!」


 アイリーの言葉が茉莉花の胸に刺さり手足を震えさせる。自覚はなかったが、その言葉のとおりだったからである。

 自分は周りの人間に興味などなくただ単に自分がチヤホヤされたいだけであった。

 自分にはたくさん友達がいて恋人もいる、そんな看板を背負いたくて彼らと付き合っていただけであった。

 後は自分のやりたいことに付き合わせて自分が楽しむ道具くらいだろう。


「茉莉花。仲間は自分が楽しむための道具じゃない。お互い楽しいことを共有したり知識を深めあったり助け合ったりするもの。自分の利益だけを追求して関係を作るなんて・・・そんなのは奴隷と変わらない。」


 しかしアイリーの言葉を認めることができない茉莉花はあくまで反発するだけで攻撃的な態度を示すだけであった。


「黙れ!!人形のあんたに何が分かるのよ!憶測でべらべらと!!そのなんでも見透かしてるって言ってるような態度が気に入らないのよ!!」


 茉莉花はバットをアイリーに向けながら叫ぶ。

 茉莉花に自分の言っていることを分かってほしかったと願っていたアイリーはうつむき辛そうな様子を見せる。

 自分がもっと人間の気持ちを理解できる存在なら茉莉花を説得することができただろうか。

 アイリーはそんなことを考えていた。


「茉莉花・・・。私、何か胸がきゅっとするような感じがする。これきっと悲しいって気持ちだと思う。茉莉花にも・・・人の気持ちが分かるようになってほしかった・・・。」


「何偽善者ぶってんのよ!!せめてあたしの気が済むまでサンドバッグにしてやるわよ!!」


「茉莉花!アイリー!!な・・・何やってるんだよ、二人とも!!」


 そう言ってやってきたのはアイリーを探し求め駆けまわっていた藤井孝明ふじいたかあきであった。

 そして成瀬清なるせきよし山崎悠真やまざきゆうまが続いて屋上へ上がってくる。


「孝明・・・。それに博士と悠真。」


「た・・・孝明。」


 アイリーと茉莉花は上がってきた3人を見て立ち尽くす。


 ひざまついているアイリー、その真正面に金属バットを握りしめそれを彼女に向けている茉莉花。

 3人は信じられないものを見たという感じで驚愕し立ち尽くす。











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