第30話 行方

 藤井孝明ふじいたかあきはバイトが終わり自宅へと帰宅する。

 今日はアイリーがシチューを作ってくれるというので楽しみにしていた。


「ただいま、アイリー。」


 しかし室内の様子がおかしい。

 電気もついてない上、何よりいつも帰ってきたら出迎えてくれるアイリーが来ない。


「アイリー?キッチンにいるの?」


 呼びかけても返事がなく、部屋中を探したがどこにもいない。

 今までこんなことなかったので孝明は不安になってきた。


 孝明はもしかすると何らかの事情で誰かの所に行っているのかもしれない。

 そう思いまずは山崎悠真やまざきゆうまに連絡してみることにした。

 電話をすると悠真が電話に出る。


「よお、どおしたんだ?こんな時間で電話なんて珍しいな。」


「アイリーが家にいないんだ!お前の所に行ってないよな!?」


 孝明は少し焦った様子で悠真に聞く。


「まじかよ。いや、俺の所には来てないぜ。アイリーちゃん、どこか行くとか言ってなかったのか?」


「いや・・・言ってないよ!今まで急にいなくなるなんてことなかったのに・・・。どうしよう・・・!アイリーに何かあったら・・・!」


 孝明が不安がっている様子を察し悠真はなだめようとする。


「落ち着けって!ちょっと何か必要なもの買いに出かけただけとかかもしれないだろ。・・・そうだ!成瀬なるせ博士だっけ?あの人にはもう連絡したのか?あの人のところ行ってるのかもしんないし、そうでなかったとしてもあの人ならアイリーちゃんの居場所特定できるかもしれないぞ。」


 孝明はなぜ最初にそれを思い浮かばなかったのだろうと思い、急いで成瀬清なるせきよしに電話をする。


「夜分遅くにすみません!藤井孝明です!実は・・・。」


 孝明は成瀬に事情を話アイリーを探し出せないか相談する。

 孝明の質問に成瀬が答える。


「分かった。すぐアイリーの現在地を調べてみるよ。こういう時のためにGPS機能を搭載してあるからね。心配しなくて大丈夫。」


 孝明は安堵すると成瀬に謝罪する。


「すいません。僕が目を離してたせいで・・・。」


「君にだって事情があるんだ。四六時中一緒にという訳にはいかないだろう。気にすることはない。」


 成瀬はそう言いながらアイリーの居場所を調べ特定する。


「場所が分かったよ船舶区高枝4-11。君の家からそんなに遠くないはずだ。」


 孝明は住所を聞いても分からないので成瀬に聞き返す。


「船舶区高枝4-11?一体どこなんですか?」


「今地図を君のスマホに地図を送るよ。どうやら、廃屋のビルにいるようだ。」


 成瀬がそう答えると孝明は驚きを隠せなかった。

 アイリーがなぜこの時間にそんなところにいるのか・・・嫌な予感がますます濃くなっていく。


「なぜそんなところにいるのかは分からん。とにかく君もそこへ向かってくれ。私も今からいく。」


「ありがとうございます!では後ほど!」


 孝明はそう言い電話を切り急いで家を出る。

 アイリーがいると思われる廃屋のビルへと地図を頼りに走って向かおうとする。

 すると孝明を呼ぶ声が聞こえ、こちらへ向かって走ってくる人影が見えてきた。

 それは最初に連絡をした悠真であった。


「悠真!来てくれたのか!」


 孝明は驚き聞くと悠真は答える。


「やっぱり女の子をほったらかしにしてぼーっとしてるなんて男が廃ると思ってな。それで、アイリーちゃんの場所は分かったのか?」


「ああ。この廃屋のビルにいるみたいだよ。」


 そう言いつつ孝明は悠真にスマホの地図を見せる。


「買い物って訳じゃなさそうだな。行ってみようぜ!」


 孝明は頷くと悠真と一緒に走り出す。

 なぜアイリーがそのようなところに行っているのか気になり、二人は色々と理由を考察する。


「なあ。アイリーちゃん、別に今日どこかへ行くって言ってないし、おかしな様子とかもなかったんだよな?」


「うん。だからなんでこんな唐突に僕に何の連絡も無しで出かけるだなんて信じられないんだ。」


 悠真の質問に答えると悠真は自分の予想を孝明に伝えてみる。


「ましてそんな何もなさそうな所に1人で行く理由があるとは思えないだろ?だとしたら誰かに連れていかれたとかって考えられねえか?」


「アイリーが・・・!?でも・・・。」


 孝明が答える前に悠真は話を続ける。


「普通の誘拐・・・って可能性も考えたけどよお。アイリーちゃん人命救助用として造られたんだろ?だったらけっこう喧嘩したとしても強いと思うし暴漢くらいなら簡単に迎撃できると思わねえか?」


 その通りだと思い孝明が頷くと悠真は続ける。


「それにあそこで誰かがトラブルに遭って助けに行ったとも考えにくいなあ。もしアイリーちゃんがいかなければならないほどの事件や事故が起こってるならもっと騒ぎになってるだろうし。」


「となると・・・後考えられるのは・・・。」


 悠真は仮説をいくつか否定し続ける。


「例えば誰かに会うのに人払いしたかったとか、あるいは呼び出されて何か付いていかなければならない理由があったとか・・・。」


 だとすると誰に連れていかれたと言うのだろう。

 見ず知らずの人にいきなりついてこいと言われついて行ったとは考えにくいし、アイリーにそんなに知り合いなどいない。

 悠真や成瀬ではないとしたら後は花泉茉莉花はないずみまりかくらいだ。


「まさか・・・茉莉花・・・?」


 でも茉莉花だとすると一体何の用で呼び出したのだろう。

 仮にそうだとしても孝明に連絡も無しで行ってしまうだろうか?


 以前から茉莉花はアイリーのことを良く思っていない感じであった。

 明らかにアイリーに対する嫌がらせみたいな行動をしてきたこともあったのでそれは間違いないだろう。

 以前悠真が茉莉花に話しかけようとしたら、怒り狂ったように一喝し追い返されたと話をしていた。

 その怒りがアイリーに対するものだとしたら・・・?


 最後に茉莉花に会った時もアイリーと孝明が一緒にいることが気に入らないと言わんばかりの態度だった。

 しかも最後孝明と茉莉花は口論するような形で茉莉花は怒ったまま帰ってしまった。

 あれからアイリーに対する嫌悪感が増大しているのかもしれない・・・。

 穏やかな状態ではない茉莉花が訪問してきて孝明を巻き込まないようアイリーが茉莉花を人気のないところへ誘導した、あるいは茉莉花の方が邪魔が入らないようアイリーを連れ込んだ・・・そのように推測した。


 孝明は嫌な予感がし急いでアイリーがいると思われる廃屋のビルへと向かう。








 そして目的のビルへと到着する。

 すると向かい側から成瀬が駆け寄って来る。

 

「どうやら間に合ったようだね。ここがアイリーがいると思われるビルだよ。あれから現在地の移動もしてないようだし、まだここにいるハズだ。」


 成瀬がそう言うとビルを見上げる。

 何か大きなトラブルに巻き込まれていなければいいが・・・。


 孝明がそう願っている矢先、大きな金属音が鳴り響く。

 音は何度か繰り返し聞こえてきており、それは孝明達の不安を煽ってくる。


「な・・・何の音だ!?」


 悠真がそう叫ぶ。

 孝明達は巨大な金属音の鳴り響く位置を聞き分け場所を察知する。


「屋上からだ!」


 孝明がそう言い3人はビルへと侵入し屋上へと向かって走り出す。







 


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