第42話 最後の日常 最終日
事件から3日目、今日がアイリーと過ごせる最後の日となる。
アイリーが
おそらく夕べ自分が落ちてから夜遅くまで自分にプレゼントをする何かを作っていたのだろう。
早く起きてきてほしいと思いつつも、起こしては悪いと思いアイリーはじっと待つことにした。
1時間ほどすると、孝明が起床しキッチンへと来る。
「おはよう、アイリー。」
「おはよう、孝明。今朝は遅かったね。」
アイリーは事情は察していたがあえて何も知らないフリをして振る舞うことにした。
前回も孝明がプレゼントをしようとしているのを事前に知っておりそれを本人に伝えてしまったが、それはよくないと思いやめておくようにした。
もしかするとこちらが知っていることを孝明は知っているかもと思ったが、それはそれで仕方ないと思い受け入れることにした。
「うん。昨日ちょっと夜更かししちゃってね。ごめんね。もうあんまり一緒にいられないのに1人の時間作っちゃって。」
孝明は申し訳なさそうに言うが、アイリーは気にしてないといった感じで首を横に振る。
「孝明には孝明の事情があるから仕方ない。気にしてない。」
孝明は朝食を食べ食器の片付けをアイリーに、任せると自分の部屋へと向かう。
アイリーが洗い物を片付けていると、孝明が部屋から戻ってくる。
孝明は何かを手に持っているようだ。
「アイリー、渡したい物があるんだ。」
「何?孝明。」
すると孝明は手に持っていたビーズで造られたアクセサリーをアイリーに渡す
それはイルカの形をしていた。
「孝明。昨日夜遅くこれ作ってた?」
「うん。前水族館行ってイルカショー観に行ったでしょ。その時の思い出をイメージしてね。」
アイリーは無言でそれをいろんな角度から見つめると孝明に礼を言う。
「孝明・・・ありがとう・・・。」
だが最初にプレゼントを渡した頃と比べるとあまり嬉しそうにしてないのが見て分かった。
もちろん2回目なので単に新鮮味が無いだけということもあるとは思ったが、その様子から孝明はアイリーの心境を察しようとする。
「もしかして・・・今回も知ってた?」
アイリーは小さく頷き答える。
「うん、ごめんね。孝明、私を驚かせようと思ってたのに・・・。」
「いいよいいよ、そんなの。僕が単にアイリーに何かしてあげたいと思ってやっただけなんだし。」
だが次第にアイリーは単にそこまで嬉しくないというよりむしろ辛そうな様子を見せ始める。
「・・・アイリー、どうしたの?」
「・・・もうこれで孝明からプレゼントもらえるのも最後なんだよね・・・。」
「・・・アイリー?」
アイリーはブローチを力強く胸元で握り締め呟く。
「もっと・・・孝明と一緒に色んなことしたかった・・・。一緒に好きな映画やドラマ観たり・・・外に出てお出掛けして・・・好きなこと共有したかった・・・。」
孝明はこんな時どのように声を掛ければよいか分からず、困惑する。
悩んだ末、何か言おうとアイリーを呼ぶ。
「あ・・・あのさ・・・アイリー・・・。」
しかし孝明が何かを言う前にアイリーは覆い被さるように孝明に抱きつく。
そして自分と孝明の口を触れさせ、そのまま離れず触れ合ったままでいる。
(・・・アイリー・・・)
孝明もアイリーの突然の行為に
数秒しか経過してないはずなのだが、その時間はものすごく長く感じた。
しばらくするとアイリーは孝明から離れる。そして軽く微笑みながら孝明の方を見る。
「ア・・・アイリー・・・!?」
「男の人って女の子にこういうことされるの好きなんでしょ?そういう情報見たことあるよ。」
どうやら・・・というか案の定本能的欲求からの行為ではなく、あくまでそういうものという情報から孝明に喜んでもらおうと思い行った行為のようだ。
いくらアンドロイドとはいえ好意を持っている女の子からいきなり接吻をされた孝明は驚き顔を赤く染める。
しかしアイリーも最初は笑っていたが、先ほどと同じように段々と辛そうな様子を見せる。
「でも・・・私には何のためにやるのか、どう嬉しいのか・・・分からない・・・。」
アイリーにはキスというものが何のためにするものなのか、どういう快楽があるのか理解できないでいた。
ただ人間は好きな者同士口付けをするものだという知識があるだけであった。
「それに・・・孝明には・・・女の子の柔らかい唇の感触じゃなくて・・・硬くて冷たい触感が伝わるだけなんだよね・・・。」
アイリーは愕然とした様子を見せる。
自分が他の女の子と同じようなことをしても男の子に異性から触れられる快楽を与えることができないことを悔やむ。
だが孝明はそんなアイリーを優しく抱きしめる。
「アイリーの気持ちはすごい嬉しいよ。だから・・・ありがとう。」
「・・・うん。」
しばらくお互いを抱きしめ合うと、孝明はアイリーをそっと放す。
「一緒に映画でも観ようか。」
「うん・・・。」
孝明も正直この残り少ない時間をどう過ごすか悩んだが、どうにか彼女に有意義な時間を過ごしてほしいと思い自分の好きな映画を観てもらおうとした。
その後も一緒にゲームをしたり今までお出かけをした所の思い出話をしたりと一刻一秒を大切にしながら過ごした。
時間はあっという間に過ぎ、時刻はすでに0時を回っていた。
「孝明、明日早い。もうそろそろ寝ないといけない。」
「・・・うん、そうだね。明日早いもんね。」
アイリーはどことなく孝明の返事が上の空のような感じがした。
明日はいよいよ自分を警察に引き渡さなければならない日なのだから当然と言えば当然かもしれないが。
「・・・じゃあ、私スリープモードに入るね。おやすみ孝明。」
そう言い休眠しようとするアイリーだったが、その時孝明がアイリーを呼びかける。
「あ・・・あのさ・・・。アイリー・・・。」
そしてアイリーは孝明に視線を向け呼びかけに応じる。
「孝明、どうした?」
だが孝明は何も答えない。しばらく沈黙したまま何かを言い
「いや・・・なんでもないんだ。おやすみ、アイリー。」
そう言われるとアイリーは小さく微笑み挨拶を返す。
「おやすみ、孝明。」
そして二人は就寝し、そのまま眠りにつく。
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