エピローグ その後

 アイリーがいなくなってから5年、藤井孝明ふじいたかあきは大学時代の友人の山崎悠真やまざきゆうまと会い街を出歩いていた。

 二人とも就職し社会人になってからずっと疎遠だったため久々に会ってみたいと悠真が言い出したのだった。


「本当に久々だよね。いきなりメールが来てびっくりしたよ。」


「大学卒業してからそれっきりだったし、ちょっとゆっくり話でもしてみたいと思ってな。で、仕事の方はどうよ?」


「ボチボチ上手くやってるよ。仕事もそこまでハードって訳でもないし、人間関係も良好だし。」


「・・・そっか。」


 二人はそのまま無難な会話を続け歩き続ける。


「正直さ、アイリーちゃんがいなくなって・・・お前も一緒に心中しちゃって・・・もう二度と会えないんじゃないかって・・・。そんな風に思ってたんだ。無事学校に復帰してくれてよかったよ。」


「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよお。はは・・・。」


 孝明はアイリーがいなくなったあの日、正直そういう気持ちにならなかったと言われれば嘘になる。

 それと本当はアイリーを連れてどこかへ逃亡しようとしてたことは黙っていることにした。


「やっぱり、今でもアイリーちゃんに帰ってきてほしいって思うか?」


「・・・まあ・・・ね。でもそんなこと願ったって帰ってくる訳ないし、そんな後ろ向きじゃあ、もしアイリーがいたら心配するだろうし・・・。だからこれからのことだけを考えて生きることにするって誓ったんだ。」


「そうか・・・。強いな、お前。」


 しばらく何も話さず歩いていると悠真は話題を変え孝明に話しかける。


「なあ。茉莉花まりかのやつ・・・あいつも思えばかわいそうなやつだったかもな。」


「え?」


「あいつ、本当に人の気持ちを考えるってことがさ・・・。しなかったんじゃなくてできなかったんじゃないかって・・・。誰からもそういう指摘されずに生きてきたせいで・・・そんなきっかけもなかったせいで自分の事さえ考えていればいいみたいな思考になっちゃったんじゃないかって思うんだ。」


「悠真・・・。」


「もう少し早く、俺か誰かが諭してやってればあいつの人生も変わってたかもしんないよなって思っちまうんだ。偽善者くさい発言かもしれねえけど。」


「・・・そんなことないよ。ありがとう、茉莉花のことまで気にかけてくれてさ。」


 孝明は本当に悠真に感謝していた。むしろそういうことをしてやるべきだったのは彼氏であった自分の役割であったハズなのに。


「そういえば成瀬なるせのじいさんはどうなったんだ?あの人も元気してっかな?」


「ああ、もう刑期も終えて無事出て来れたらしいよ。これ以上研究は辞めて隠居生活送るってさ。」


「そっか。よかったなあ。」


 二人してトボトボ歩いているとすでに12時を回っていることに気づき悠真が孝明に尋ねる。


「そろそろどっかで飯でも食うか?腹減ってきたろ?」


「そうだね。じゃあ、この先にある『やき家』でも行くか。」


 そう言うと二人は目的の店へと向かおうとする。

 

 しかしその瞬間孝明は悠真との話に夢中で前方に気づいておらず誰かにぶつかってしまう。

 悠真も前方不注意で孝明がそうなるまで全く気付いていなかった。


「お、おい。大丈夫か、孝明。」


 孝明を心配する一方相手が孝明に向かって怒鳴り散らしてくる。


「あいた!ちょっとおじさん!どこ見て歩いてるのよ!!大怪我でもしたらどうすんのよ!!」


「あ、ごめんね。大丈夫だ・・・?」


 孝明がその相手を確認すると言葉を途中で止めてしまい、その相手に見入ってしまう。

 その相手は14~15歳ほどの少女で銀色のロングヘアで孝明のよく知る人物に瓜二つだったのだ。


「ア・・・アイリー・・・?」


 孝明は思わずその名で呼んでしまう。

 今目の前にいる少女はアイリーなのではないかと思うほどそっくりだったのだ。






 


 


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