第21話 妬み
水族館へと来た
けっこうな時間歩き気が付くと13時を過ぎていた。
「もうこんな時間かあ。お腹空いたしどこかでお昼取ろうか。」
そう言い終わった後孝明は『しまった』と思った。
アイリーは食事を取ることができないため、彼女が楽しめないものを提案するなど不謹慎なのではと思った。
だがアイリーは察してくれたのか孝明に食事を勧める。
「私のことは気にしないで大丈夫。孝明はご飯食べないと倒れちゃう。」
孝明はアイリーに『ごめんね』と言いフードコーナーへと向かう。
孝明は安くて早く食べ終わりそうなものを注文し食事を始める。
アイリーは隣に座って待っている。
アイリーに申し訳ないと思い早く食べようと思ったが、それが余計彼女に気を使わせてしまうと思い普段通りのペースで食べることにした。
食事を続けていると近くの席で家族連れの姉弟らしき子供たちが食事の分け与えをしている。
『おねーちゃん、これ食べてみて。美味しいよ。』
『じゃあ康太もこれ食べてみる?』
そのような会話が聞こえてきて微笑ましいと思い孝明は少し笑みを浮かべる。
アイリーの方を向くと彼女もあの一家を見ているようだ。
だが、少しするとうつむき何かシュンとした感じで元気が少しないように見えた。
まさか何か食べてみたいのか思ったりもしたが、彼女には人間の三大欲求の食欲はプログラムしてないと
「アイリー・・・どうしたの?気分悪いの?」
アンドロイドに気分のいい悪いがあるのかどうか分からなかったが、孝明はとりあえず聞いてみることにした。
「ううん。なんでもない。気にしないで。」
孝明は気になってはいたが、彼女が気にしないでほしいと言っているのだ。
あまり追究するのも悪いだろうと思い聞かないでおくことにした。
孝明は食事を終えアイリーに声を掛ける。
「そろそろ行こうか。待たせてごめんね。」
「うん、続き楽しみ。」
孝明とアイリーは水族館の続きを堪能する。
孝明はふと看板の案内を見るとアイリーに話しかける。
「アイリー、3時からイルカショーがあるんだって。観に行かない?」
アイリーは小さく頷く。
二人はその場へ向かうことにした。
二人が席に着くとイルカショーが始まる。トレーナーがイルカを誘導し泳いだり飛び跳ねたりする姿に歓声を上げる観客もいた。
孝明も子供心のまま目を光らせ見ている。
「やっぱり何度見てもすごいなあ。」
孝明がそう呟くとアイリーが質問を投げかける。
「孝明。ここ、何度か来たことある?」
「うん。子供の頃に両親に連れてきてもらってたよ。最後に来たのは中学1年生の時だったかな?それからは自分で行こうと思ってたんだけど、お金がなかったから無理だったなあ。大学入ってからは悠真って友達連れて1回来たことあるくらいかなあ。茉莉花を誘ったことあったんだけど、あいつ興味ないからって来なかったよ。」
アイリーは『ふーん』と答え、二人はショーの続きを楽しむ。
ショーは終わり二人は席を立つ。
「ん~、面白かったなあ。アイリーはどうだった?」
「・・・私は感性とかよく分からないから、データと照らし合わせてあれが素晴らしいもの、人に感動を与えるものっていうのが分かる・・・くらい。」
「そっか。」
「でも孝明が楽しそうにしてるの見てるのすごいいい風に思った。多分これ『嬉しい』とか『楽しい』って気持ちだと思う。」
孝明はそれを聞き嬉しく思った。
この子は感情がないのではなく、自分が感じているものが何なのか理解できていないだけではと。
感情表現できるよう成瀬はプログラムを試みているようなので可能性はあると思った。
「アイリー、ありがとう。」
孝明はそう言うとスマホの時計を見るともう17時を回っていた。
「そろそろ帰ろうか。また来ようか?」
アイリーは迷わず首を2回縦に振る。
孝明は駅に向かいながらアイリーの方をちらっと見ながら思う。
(本当にこの子が実の妹とかだったらなあ。もしくは・・・。)
夕方、孝明達が通っている大学近くを
茉莉花は何やら退屈で少しイラつき気味で手に握っている缶のミルクティーを飲んでいた。
(あー、もうつまんないなあ!なんでみんなパスなのよ!)
孝明が今日の日曜用事があるということで他の女友達を誘ってどこか遊びに行こうと何人かに電話したようだ。
しかしみんな『今日は用事がある』と断ってきたのだ。
最近断られる回数が日に日に多くなってきている気がしたのだ。
最初はバイトや学業が忙しくなってきているものかと思っていたが、話し方にちょっと迷いがあるというかはっきり言いづらいような雰囲気を声から感じ取っていた。
(私のことを避けてる?まさか私に限って・・・)
自分に非があると思うことのない茉莉花はそんな訳がないと思った。
(・・・はあ。やることないし帰るか。来週の日曜は孝明に目一杯奢らせて
そして帰ろうとする茉莉花は信じられないものを目にし立ち止まってしまう。
用事があると言っていた孝明がもう
しかも自分と付き合っている時には見せないような楽しそうな笑顔でアイリーと話をしている。
(なんで・・・?なんであの子まだいるのよ・・・?帰ったんじゃなかったの・・・?いや・・・それより・・・なんで孝明・・・あいつはあんな楽しそうに笑ってるのよ・・・!!)
茉莉花は手に握っていた空き缶を強く握りしめ潰した。
手の表面から血がにじみ出るほどに。
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