第43話 封印の地⑧ 西の巫女の過去
怯んだ邪龍は威嚇するように牙を剥く。光の柱の中から出てきたのは天照大御神様。阿須波様の身体を借りているときに見た姿と同じ神々しい女神だ。その表情は悲し気で邪龍となった闇淤加美神様を憂いているようだ。
「嘆かわしい。神が堕ちるとは。巫女は気を失っているのですね。仕方ありません。では、お前は一度封印することにします。いずれお前は浄化してもらいます。その時まで眠りなさい」
天照大御神様はそう言うと片手をかざした。瞬時に邪龍の周りが凍りつき、抵抗する間もなく闇淤加美神様は氷漬けにされた。
「お前たち、闇淤加美を奥へ運びなさい」
「御意」
命じられて姿を現した天照大御神様の従者と思しき者たちによって氷は岩山の奥へと運ばれた。
簪が光り、中から魂となった瑠姫様が出てきた。岩山の方を見つめて泣いている。
「なにも出来なかった」
「瑠姫様」
私の隣にいた瑠姫様が零した。
「ごめんなさい。貴女に過去を見せてしまって。辛かったでしょう?」
「いえ。でもどうして過去が見えたのでしょうか」
「それが私の巫女としての力だからです。私たちの瞳は魂の持つ過去を視ることができるんです。過去を知ってその人の後悔を、未練をなるべく少なくしていたんです。今は力の制御ができず魂が視認できる貴女に見せてしまったみたいです」
「瑠姫様の身体は闇淤加美神様の中ですか?」
私の問いに彼女は頷いた。亡骸は邪龍と化した闇淤加美神様に取り込まれているようだ。
「魂は簪に移したんですね?」
「ええ。魂が取り込まれる前に私は簪に宿りました。でも、今まで誰も私に気づいてくれなくて貴女が初めてなんですよ。ありがとう気づいてくれて」
私は簪を見つめた。見た過去を思い出しながら瑠姫様が簪に魂を移そうと考えた気持ちを考える。きっとこの人はまだ闇淤加美神様を救うことを諦めていない。ずっとこの地で簪に宿りながら彼を助けてくれる者、巫女が来るのを待っていたのだろう。
でも私は、私の目的は闇淤加美神様を救うのではなく、闇御津羽神様を救うことだ。呪いを受けた腕の傷から溢れる呪いは闇淤加美神様やここで死んだ人たちの恨みや悲しみだ。邪龍の禍々しい姿に今さら身体が震える。鎮めるためには一度封印を解かなければならない。あの邪龍と対峙して鎮められる自信が今の私にはない。天照大御神様や瀬織津姫様たちの言っていた意味がわかる。私がするべきことを改めて考える。やはり巫女としての力をつけるべきだと私は決意した。
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