第24話 出会い③ 闇淤加美神と西側の巫女

 西側の人間は巫女の存在を恐れた。人とは異なる力を持つ者。貴族とは違い庶民の娘が龍神と共に在ることを異質だと感じていた。


 闇淤加美神くらおかみ様は異界へ招こうとしたが、巫女たちは断り続けていた。


 神の眷属ではなく、人として多くの魂を送る手伝いをしたいと言う巫女に神も強く異界へ勧めることができなかった。


 そんな中、闇淤加美神様はたった一人の巫女に想いを寄せていた。二人は何度か共に儀式を行うにつれ心を通わせていた。


 止雨様曰く、殺された最後の巫女も闇淤加美神様へと想いを寄せられており儀式が終われば添い遂げる決意をしていたらしい。


 巫女を殺した理由は神に嫁ぐ意思を持ったからだろうと闇御津羽神様たちは考えた。


「添い遂げる意志を持つだけで殺されるんですか」


 悲しくなった。たったそれだけの理由で殺されるなんて。巫女はたくさんの魂を救って来たはずなのに。


 以前長屋で石を投げられたことを思い出す。あのときの住民たちの目には仄暗さが垣間見えた気がした。同じ目を巫女も向けられたのだろうか。


「人間すべてがとは言わないが、そういう人間もいるということだ。それをあいつは愛した者を殺されるまで信じなかった」


 顔を覆い隠したままの闇御津羽神様は続きを話してくれた。


 巫女は殺されたが、彼女の代わりを務めることができる者はいなかった。だが、戦場では魂が荒魂に変わり始めていた。


 責任感の強い闇淤加美神様は止雨様の制止を聞かず巫女の遺体を抱いて戦場へと向かった。神に御霊送りは出来ない。


 だから闇淤加美神様は戦場で水龍の姿に変わり多くの魂を己の身体へと取り込むことにした。荒魂を生み出すくらいならその魂ごと封じてしまおうと考えた結果だ。


 他に方法はなかった。


 けれど、闇淤加美神様の考えを上回るほど人の魂は穢れておりすでに荒魂と化していた。


 そして取り込んだ闇淤加美神くらおかみ様の内側から荒魂は浸食していき水龍の身体は呪いに侵された。理性を失った闇淤加美神様は怪物と化し暴れ、呪詛が溢れた。


 多くの魂を救うはずが逆に命を奪う形になった。


 事態を重く見た天照大御神様に呼ばれた闇御津羽神くらみつは様が駆けつけたときには被害は大きく誰にも止めることはできなかった。


 闇淤加美神くらおかみ様を止めるために戦った際に負った怪我が彼の腕についている傷だ。


 呪いに侵された者から受けた傷はそこから呪詛が入り込み内側から侵食していくのだという。呪いを解除するにはその主を倒すしかない。


 けれど戦っても勝てず当時の東側の巫女でさえ何もできなかった。


「それで闇淤加美神様はどうなったのですか」


「あいつは天照大御神様によって封印された。今でも氷漬けにされている」


 闇御津羽神様の声が震えている。双子のような存在の変わり果てた姿とその末路を思い出させてしまった。


 私はどうしていいか分からず彼の手を握った。今の私に出来る精一杯だ。彼が驚いて顔を覆っていた方の腕を退かせて私を見る。


「すみません。無礼をお許しください。お辛そうだったので」


「いやいい。そのままで」


 握られた手に力を込められる。彼は続いて私と初めて出会った時のことを話してくれた。

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