第25話 出会い④ 幼い鈴華と闇御津羽神
迷子になっていた私が泣きながらお母さんを呼んでいるところに彼が居合わせた。
私をお母さんの元に連れていく途中で呪いの発作が起きて苦しんでいた闇御津羽神様に幼かった私が神歌を唱えて発作を抑えてくれたのだという。
まったく覚えていない。たしかに幼い頃はお母さんから巫女の話を聞いて舞いや神歌を教えてもらい覚えるのが楽しかった記憶がある。
そして褒めてほしくて覚えたての神歌をよくお母さんに披露していた。
その一環で恐れ多くも闇御津羽神様に披露してしまったのではないだろうか。幼かった私ならあり得る。
「お前が俺を救ってくれた。あの時名を聞きそびれてしまって。ずっと探していたんだ」
「その子が私だってどうしてわかったんですか?」
人違いかもしれない。もし人違いだったら彼から向けられる優しい感情はなくなってしまうのだろうか。
そう考えるとまた胸が痛んだ。今度は心臓をギュッと掴まれたような痛みだ。どうしてだろう。やっぱり分からない。
「目だ。紫色の瞳を持っている者は珍しい。裏巫女たちの中でもその色を持っていた者は朱姫以外知らないからな」
「で、ですが森で出会た時は」
「あの時は緊急事態で俺も余裕がなかったからな。それに、お前は森では終始俯いていただろう。前髪も長くて顔がよく見えなかった」
言われてみればあの時は侵入した罪悪感や自分の自信のなさから俯いていたかもしれない。
前髪だってここで目覚めたあとに髪を結うついでに阿須波様が切ってくれた。
「阿須波が用意した服を着て俺の前に来ただろう。あの時に確信したんだ。助けてくれたのはお前だったと」
「わ、私はそのときのことは覚えていませんし、やはり人違いという線も捨てきれません」
「お前が何と言うと関係ない。あくまできっかけにすぎないからな」
顔に熱が集中するのを感じて逃れようと後退するけれど、私が座ったのは端だ。これ以上は後退できない。
「いいか、俺はお前が」
「はーい。闇御津羽神様、それ以上は鈴華様にはまだ刺激が強すぎますのでそこまでです」
彼の言葉を遮るように阿須波様が入ってきた。
不機嫌になる闇御津羽神様とこれ以上は心臓が持ちそうになくて安堵する私、笑顔を向ける阿須波様とおろおろとする祈雨様と止雨様。みんな反応は様々だ。
「阿須波」
「結構時間が経っておりますし、これ以上は鈴華様がお休みになれませんので」
そう言われて闇御津羽神様は溜息と共に身体を退けてくれた。握られた手を離す際、彼は私に耳打ちする。
「また休憩する時には頼む」
「え、あの」
耳元で彼の低く甘い声音で囁かれて再び顔が熱くなる。両手で頬を包めば熱を帯びている。返事を聞かないまま彼は立ち上がると部屋を出て行ってしまった。
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