第23話 出会い② 闇淤加美神と西側の巫女

 闇御津羽神様は左腕を挙げた。袖がずれて腕が露わになる。適度に筋肉がついたたくましい男性の腕。


 そこには一線の切り傷ができていた。そこは御霊送りの儀式の時に荒魂になりかけていた魂に私を庇った時の場所だ。


 庇わなければ呪われなかったと思うと私は泣きそうになった。私の表情を見た闇御津羽神様は苦笑を滲ませて違うと否定した。


「お前を庇った時の傷ではない。ずっと昔に負ったものだ。そんな顔をするな」


 昔、この地には闇御津羽神様と闇淤加美神くらおかみ様の二人の神様がいて二人とも天照大御神様より西側と東側に別れ魂の運び手の役割を与えられていた。


 彼らは同時期に生まれたためか容姿がとても似ていたらしい。


 さらには闇御津羽神くらみつは様に祈雨きう様が、闇淤加美神くらおかみ様に止雨しう様が仕えていた。


 祈雨様と止雨様も二人の神同様で同時期に生まれた存在であるためか容姿がそっくりだ。役割こそ違えど、主に仕え支えるのは変わらない。


 また、闇淤加美神様の方にも巫女はいた。西側の巫女は貴族からの選出ではなく、純粋に力のある者が選ばれた。


 巫女との信頼関係も良好で闇淤加美神様は人間に信頼を寄せていた。いや信頼以上の想いを闇淤加美神様はたった一度だけ巫女に好意を寄せた。


 けれど、その想いは届くことはなかった。


「あいつは人間を信用しすぎた。いつもへらへら笑い、こちらの忠告を聞かなかった。だから人間によって最悪の結果をもたらされた」


 闇御津羽神様は片腕で目元を覆い続きを話してくれた。


 闇淤加美神様は巫女と共に死んだ人間の魂を鎮めるために戦場へ向かうことになっていた。


 戦場は大勢の人間の死を招き、残された者たちの無念の嘆きが多く渦巻く場。


 そこに足を踏み入れるという事はたくさんの荒魂になりかけている魂と向き合うことになる。先に向かっていた闇淤加美神様と止雨様は戦場で巫女の到着を待った。


 けれど、数刻経過しても巫女は現れず、戦場を彷徨う魂は荒魂に変わりつつあった。


 巫女の身に何かあったのかと心配になった闇淤加美神様が迎えに行くと、巫女の変わり果てた姿を目にする。戦場へ赴こうとしていたのだろう。


 舞装束に着替えた巫女はうつ伏せに倒れ、白い小忌衣おみごろもは血で真っ赤に染まっていた。


 吸収しきれない血が地面に血だまりを作りその上に巫女が倒れていた。闇淤加美神様が目にした時にはすでに巫女は息を引き取っていた。


 殺された巫女を誰も救ってはくれなかった。閉じられることのない瞳、頬にはいくつもの涙の痕。闇淤加美神様は巫女の遺体を抱いて泣き叫んだのだという。

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