第22話 出会い①

 目を閉じた闇御津羽神様から寝息が聞こえ始めた。手をかざしても目を覚ます気配はない。今なら私から触れても気づかれないだろうか。


 端正な顔、長いまつ毛、綺麗な肌。私とは不釣り合いな方。眠っている彼の頭を撫でてみる。


 これで起きたらと、不安になったけれど、起きない。それだけ疲労が溜まっていたということだろう。


「どうして私に構うんですか? 私が裏巫女の娘だから? それとも」


 言葉が詰まる。朱姫の話を聞いてから私にそっくりな初代裏巫女である朱姫のことが気になっている。


 朱姫のことは闇御津羽神様も当然知っている。瀬織津姫様たちのように朱姫と私を重ねているのかもしれない。


 だから私に構ってくれるのかもしれない。そんな思いが頭をよぎる。


「朱姫に私が似ているからですか?」


 口にしてからなぜか胸が痛んだ。体調が悪いのだろうか。いや、どこも悪くないと思う。


 でも胸が針で刺したように痛む。


 自分の胸に手を当てても痛みは消えない。この感情を私は理解できない。処理できない。


「いつか理解できる日が来るでしょうか」


 撫でる手を止めてぽつりとこぼした。


「言っておくが、朱姫に似ているからお前を傍に置いているわけではないからな」


 寝ていると思っていた彼からの返答に私の心臓が跳ねた。どくどくと鼓動がうるさい。


「く、闇御津羽神様! ずっと起きていらしたのですか?」


「少し寝ていた」


「起こしてしまい、申し訳ありません。手もすぐに離し」


「そのままでいい」


 慌てて手を離そうとする私を闇御津羽神様が止めたため私の手は彼の額に乗せられている。


「お前を傍に置いている理由は朱姫に重ねていたわけでも、巫女として利用したいわけでもない」


「ではどうしてですか?」


 問いに闇御津羽神様は一瞬だけ視線を逸らしてから話し始めた。


「幼いお前が母親と共にこちら側に来た際、迷子になったのを覚えているか?」


 首を左右に振る。お母さんに連れられてこちら側に来た記憶はあるけれどすべてではない。迷子になった時のことも記憶にない。


「迷子になったお前は一人で泣いていたんだ。そこに俺が居合わせた」


 彼との出会いは先日の御霊送りの儀式だと思っていたけれど、ずっと前だったらしい。


「闇御津羽神様が助けて下さったんですか?」


「いや。助けてくれたのはお前だ」


「私ですか?」


 記憶にない私は首を傾ける。そもそも出会いから彼と私の認識に差があるのだから当然だ。私の反応に闇御津羽神様は苦笑する。


「小さかったからな。覚えていないのも当然か。俺は呪われているんだ。呪いの発作に苦しむ俺を一時的に救ってくれたのがお前だ」


「私が救った?」

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