第2話 母との別れ
むかしむかし、
少女は巫女となり神から
その代わり、巫女の血を受け継ぐ者を次代の巫女として四年の一度の御霊送りの儀式を行うことを約束しました。
私が幼い頃にお母さんがよく聞かせてくれた御霊送りの巫女の話。数百年前の話で現実的ではない架空のような物語に幼かった私は夢中だった。
そんな私をお母さんはときどき秘密の場所へと連れて行ってくれた。
「オン・マユラギ・ランデイ・ソワカ」
池の前で唱えたお母さんが迷いなく池の中に入る。はぐれないように手をしっかりと繋いで私は水に浸かることを覚悟してぎゅっと目を閉じた。
水圧を感じることもなくゆっくりと下に身体が沈む感覚の後、気がつけば森の中にいた。
鈴の音が山の中に響き、その音に驚いてお母さんに抱きついた私をお母さんは抱えて進む。舗装されていない道を迷いなく進むと池を挟んで向こう側に神楽殿が見えた。
奥で誰かが舞っている。鈴の音はそこから発せられていた。お母さんは神楽殿と対面する位置で足を止めて私を地面に降ろした。
ここは屋根のある向こうと違って草木ばかりで足場は悪い。
「少しここで大人しくしていてね」
頷いて私は少し離れた。鈴の音に合わせるようにお母さんは神歌を唱え始めて舞いを舞っていたのを今でも覚えている。
神秘的な姿に御霊送りの巫女のおとぎ話を重ねていた。そんなお母さんに憧れてたくさん舞いと祝詞や神歌を覚えた。庶民の私たちは長屋で暮らしていた。
お父さんは私が生まれてすぐ病気で死んでしまったらしいくお母さんは女手一つで私を育ててくれた。
十三歳になった私たちの暮らしは変わらず貧しいままだった。それでも辛くはなかった。
けれど、十四歳になってしばらく経った頃お母さんは病気で死んでしまった。薬代を稼ぐために機織りをして反物を市まで売りに行き薬を買っての繰り返し。
何度もお母さんが泣きながら謝っていた姿を見る方が辛くて薬を飲んだお母さんが眠った後外で一人泣いた。
薬の効果も虚しく、ある日お母さんは静かに息を引き取った。
心が引き裂かれたような感覚で遺体となったお母さんに縋り付くように泣き叫んでいた私を見かねて近所の人たちが引き離してお母さんの遺体を葬場へと送った。
虚無感でいっぱいだった私は一人ふらふらと歩いていた。生きていることに何の意味も感じない私は路地で霊を見かけた。
幼いころから霊力の強かった私は霊体をはっきりと認識できた。そのことを話すとお母さんは悲しそうにして謝りながら頭を撫でてくれたことを思い出す。
私の足は霊たちの向かう方向へ向いていた。
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