第13話 朱姫と裏巫女①

 机を挟んで正面に相手は座る。見れば見るほど美しい女性だ。見惚れていると相手が口を開いた。


「突然呼び出してすまなかったな。御津坊が巫女を自ら選ぶなんて初めてで少し興味が湧いたんだ」


「ご自分で選ぶのは初めてなんですか?」


「なんだ。何も聞いていないのか。通常であれば巫女の選出は貴族共が勝手に行い、御津坊が連れてくることになっているからな。あの子が自分の意志を押し通すなんて珍しいことなんだよ」


 闇御津羽神様に誘われた時のことを思い出す。貴族様が選ぶ巫女の力の衰退。


 それが何を意味しているのかは私にはわからないし、訊いてはいけない気がした。


「それにしても、お前は本当にあの子にそっくりだな。服と髪型は阿須波がやったのか?」


「は、はい。服を選んでいただいて、髪も阿須波様が結ってくださいました」


「そうか、阿須波のやつ余計な気を回しおって」


 言葉とは裏腹に瀬織津姫様の表情は穏やかで誰かを懐かしんでいるような顔だ。先ほど口走っていた朱姫のことだろうか。


 気になるけれど私が聞いていいことではない。


「その顔。朱姫のことが気になるのだろう」


「え、あの。はい」


「ふふっ。良い。先に名を出したのは私なのだからな。気にするなというのも酷な話よ」


 笑う顔も上品だ。瀬織津姫様は長話になるからと立ち上がるとお茶を準備して机に置いてくれた。


「今から語るのは朱姫。私の大事な娘と裏巫女の話だ。人に語るのはお前が初めてだな。少し長くなるが、聞いてくれるか?」


 裏巫女に関して何も知らない私にとってはありがたい。頷いた私に瀬織津姫様は柔らかく笑い、語り始めた。




 荒魂を鎮めるために選ばれた一人の少女。その子は巫女となり、瀬織津姫により神歌と舞いを習うと見事荒魂を鎮めて魂たちを天へと返した。


 だが、巫女は人間。いくら力が強く魂を鎮めることができても寿命が足枷あしかせになる。


 そこで主神、天照大御神あまてらすおおみかみ(は子孫を残すよう巫女へ命じ、その手伝いとしてたくさんの物を与えた。土地と財を得た巫女と家族は貴族へと昇格する。


 巫女は約束通り子を身ごもった。だが、出産して周りは驚愕する。生まれた子は双子の女児。双子は不吉の象徴として人間は恐れた。


 恐れから人間は愚かな行動に出る。貴族たちは後に生まれた方を池に投げた。


 生まれたばかりの赤子は溺死するはずだった。


 けれど、巫女の血を濃く受け継いでいたからか、赤子は池に沈み水底ではなく、異界へとたどり着いた。


「泣いている赤子を拾ったのは私だ。その子に朱姫と名を与え育てることにしたんだ」


「初代巫女様の子供が朱姫ですか」


「そうだ。巫女の子供のことは報告として受けていたからな。落ちてきた赤子が巫女の子供だとすぐに気づいた」


 朱姫のことを話す瀬織津姫様の表情はお母さんに似ていた。

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