第14話 朱姫と裏巫女②

 朱姫を育てることにした瀬織津姫は一人では無理だと判断して阿須波を呼んだ。二人で育て朱姫はすくすくと成長した。


 朱姫には特徴があり、瞳の色が人間と異なっており紫色をしていた。紫色の瞳は初代巫女と同じ色であり、魂を視認できる。


 さらには魂の本質を見抜くことができた。瞳を受け継いだのは朱姫だけであり、もう一人には受け継がれていない。


 気づいた瀬織津姫は朱姫を巫女として教育すると決めて神歌と舞いを叩き込んだ。朱姫は舞いを舞う瀬織津姫に瞳を輝かせ、憧れており覚えが早かった。


 成長して十歳になった頃、すでに何度も行われていた御霊送りの儀式を始めて見学した。すでに初代巫女は他界しており、次代の巫女の子が務めていた。


 異界では人間世界と時間の流れが異なっており、朱姫が十歳になる頃には双子の姉は母親になっていた。


 自分の出生を知らない朱姫は外の世界から来る巫女に興味を惹かれていた。


 それから時が流れて新たな巫女が送られてきたが、次の巫女に神歌と舞いは受け継がれなかった。頭を抱えた瀬織津姫は阿須波に巫女の教育を命じた。


 貴族出身で巫女の子孫として甘やかされて育った巫女は覚える事に抵抗を示し、習得までに時間がかかるようになった。


「それでも儀式は行わねばならん。なぜか分かるか?」


「荒魂を生み出さないためでしょうか」


「そうだ。では、なぜ人間が儀式を行うか分かるか?」


 人間が儀式を行う理由を問われて私は困った。分からない。幼いころから儀式は巫女が行うものだと思っていたから。


 だけど、考えてみれば神歌と舞いを知る神が行えば、世継ぎの問題も教育の問題も解決する。人間をこの地に呼ぶ必要だってなくなるはずだ。


 考え込んでしまった私に煮えを切らした瀬織津姫が代わりに答えた。


「魂は人間のものだからだ。神は死なぬ。死なぬ者に鎮魂は必要ないだろう。魂を鎮めるのは人間のためであり、それは人間の責務だ」


「人間の責務」


「死した人間の魂を視認出来るか?」


「はい。白っぽく半透明な人の形をしています。けれど、中には黒っぽい塵のようなものをまとっている魂もありました」


「それが荒魂あらみたまになりかけている魂だ」


 私はごくりと喉を鳴らした。見た瞬間に悪寒が走ったのを覚えている。自然と両腕をさすった。


「荒魂は戦場で命を落とした者の無念、飢餓きがで死んだ者の苦しみ、争いに巻き込まれて死んだ者の嘆き、悲しみが集まったものだ。本来は荒魂になる前に巫女がその場に赴き魂を鎮めてここに連れ来るんだ。部屋数が多いと思っただろう」


 阿須波様に案内された時にたくさんの部屋が用意されているのを見た。この部屋は集めた魂の保管場所として使われているらしい。


 今は御霊送りの儀式直後のため部屋は空だ。貴族から送られてくる巫女はすぐに儀式を行うことができない。


 そこで裏巫女たちが代わりに定期的に魂を送っていたのだと瀬織津姫様は教えてくれた。


 お母さんがたまに出掛けていたのは巫女の代わりに儀式を行っていたんだ。私は裾をギュッと強く握りしめた。

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