第15話 朱姫と裏巫女③

「話が逸れたな。朱姫の話に戻そう」


 巫女の教育に時間がかかるようになってから御霊送りが滞り始めた。


 用意した部屋に魂が収まらなくなったのを見て朱姫は自分が御霊送りをすると言い出した。最初は反対した瀬織津姫様も現状を鑑みて朱姫に巫女の代わりを指示した。


 朱姫は快く応じて代わりを務めた。


 けれど、表向きは貴族の顔を立てるため、そして朱姫を守るため巫女が行ったことにしなければならず、朱姫は裏巫女として儀式を行うことになった。



 朱姫のおかげで魂は荒魂にならず定期的に魂が送られていたが、裏巫女の存在を知った巫女が外の世界に戻った際、貴族へと朱姫の存在を明かしてしまった。


 巫女は一人で十分。他に巫女がいれば自分たちの立場を脅かされるのではないかと危惧した貴族たちは再び愚かな行動に出る。


 次の巫女が送られた際、巫女と朱姫を接触させた。外の世界に興味を持っていた朱姫は巫女と仲良くなった。


 そして、巫女は朱姫を外の世界に連れ出してしまった。


「油断していた私は朱姫が連れ出されていたことに気づくのが遅れた。連れ戻そうと使者を送ったが手遅れだったんだ」


 瀬織津姫様は瞳を伏せた。後悔と悲しみを押し殺しているような顔に私は何も言えなかった。大事な家族を突然失う悲しみは分かってしまう。


 引き裂かれたような感覚。机の上で組まれた手が震えている。私は何も言えない代わりに瀬織津姫様の手にそっと自分の手を重ねた。


 弾かれたように私を見る女神に私はやっぱり何も言えず、ただ見つめることしかできない。


「すまない。朱姫は、な」


 押し殺すように組んだ手に力を入れた瀬織津姫様は震える声で続けた。


「人間によって無理やり孕まされたんだ」


「え……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る