第12話 瀬織津姫
外に出て少し歩いて庭園を抜けた先、離宮が見えてきた。闇御津羽神様に続いて中に入ると若い女性が一人。
窓から差し込む陽の光を浴びて佇む姿は女神の名に相応しく美しい。阿須波様も美人だが、瀬織津姫様はそれを上回る美しさを持っている。
長い黒髪を結い金色の髪飾りをつけている女神様は私を見ると目を大きく見開いた。
「
ぽつりと零すと近づいてきた。あと一歩で手が届きそうな距離で瀬織津姫様は我に返ったように止まった。
「瀬織津姫、言われた通り連れてきたぞ」
「ご苦労。
「承知しました。話が終わった頃に迎えに来ます。鈴華、またあとで」
「え、あの。ちょっと」
部屋から出て行こうとする
行かないでと言葉が喉につっかえて出てこない。相手を困らせたら、怒らせたらどうしよう。
早く手を放さなければ。俯いた私の意思とは反対に裾を掴む手に力が入る。
「鈴華」
呼ばれて顔上げた私は目を丸くした。怒られることを覚悟していたのに彼は困ったように眉を下げている。
それでも裾を離さない私の手にそっと重ねてやんわりと解いていく。
「あの、すみません」
「大丈夫だ鈴華。
そう言って微笑んだ彼に私は頷いた。
「コホン。もう良いか? 御津坊はこのあと仕事があるのだろう。早う行け」
シッシッ、と払うように手を振る瀬織津姫様に闇御津羽神様は不服そうな顔をする。
仕事があるのは本当なのだろう、呼びに来た止雨様の顔には焦りが見える。不安だったにせよ引き止めてしまったことに罪悪感が込み上げてきた。
俯きかけた私の顔に闇御津羽神様が手を添えて止める。強制的に顔を上げさせられた私は彼を見上げた。
「いきなり連れてこられて不安だったんだろう。気にしなくていい。また来る」
「はい」
「はぁー。そこはいってらっしゃい、だろう。男を見送るならそれくらい言ったらどうだ」
「へ?」
聞いていた瀬織津姫様が呆れたように言う。今まで男性を見送ったことなどない私は思わず間の抜けた声が出た。
彼も予想外だったのだろう、私と同じで間の抜けた声を出して二人の声が重なった。私たちの反応が可笑しかったようで瀬織津姫様は声を殺して笑い出す。
ひとしきり笑った瀬織津姫様に追い出されるように闇御津羽神様は部屋から出された。残された部屋に私と瀬織津姫様の二人きり。
外には彼の言った通り祈雨様の気配がする。
緊張してきた私は服の裾を掴んでキュッと握った。
「鈴華、と言ったな。とりあえず座れ」
促されて私は椅子に腰かけた。
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