第11話 案内

 怪我が完治して体調も戻った私は阿須波様の用意してくれた漢服のような異国の服に袖を通してみたものの、慣れない。


 着替えが終わったのを見計らったかのように阿須波様が訪ねてきた。


「着替え終わりましたね。お似合いですよ」


「あ、ありがとうございます。でも、全然慣れなくて。元の服の方が落ち着くのですが」


「ここでは前の服の方が浮いてしまいます。大丈夫ですよ、そのうち慣れます」


 笑顔で言われてしまえば何も言えなくなる。それよりもこの屋敷に身を置いている者として働かなくては。


 巫女としての仕事を覚えることに専念しよう。私は阿須波あすは様に問うた。


「阿須波様、巫女の仕事とは何をすれば良いのでしょうか」


「そうですね。まずは規則正しい生活。次に儀式のための神歌、舞いを覚える、機織りでしょうか。本来はまだやっていただきたいことがあるのですが、神歌や舞い、機織りだけで精一杯だったみたいですので私たちも最低限のことしか望んでいませんでした」


 私は目をしばたたかせた。阿須波様が挙げたことはすべてお母さんから教わっている。機織りは生きるために仕事としてすでに身に着いていた。


 そのことを彼女に告げると困ったように眉を下げてしまった。


「そうでした。裏巫女様の娘である鈴華様はほとんど覚えることがないのですね。機織りも出来るのであればどうしましょうか」


「他に仕事があればやります。それか、先ほどの他にやってほしいこと等なんでもやりますので遠慮なく言ってください」


 孤独になった私を救って優しく接してくれる彼女たちの力になれるなら自分に出来ることがあれば何でもやるつもりだ。


 意気込んでいる私に阿須波様は苦笑交じりに頬を撫でてついてくるように言った。


 彼女の後をついて歩きながら屋敷の中を案内された。部屋を出て屋敷から宮廷のようだと認識を改める。


 そしてここがどんな場所かも知ることができた。池に通じているここは異界。水の底にあるように見えて違う場所。


 異界へ行けるのは闇御津羽神様とその眷属けんぞく、巫女と裏巫女だけだ。


 裏巫女が許されるのは神楽殿の付近までで、屋敷の中への立ち入りは巫女だけが許されていた。


 朱色の柱が並び、広い宮廷には部屋がいくつも設けられている。外に出れば、石造りの橋。向こう側は庭園になっていた。


 池を通じているからか、庭園の傍に池があるのが不思議に思えた。


「広くて部屋数も多いので最初は迷うかと思いますので、慣れるまでは祈雨か止雨が常についていますので安心してください」


 正直一回の説明では覚えられる自信がなかったから助かる。阿須波様は最後に闇御津羽神くらみつは様のいる部屋に向かった。


「闇御津羽神様。鈴華様の案内終わりました」


「ああ、お疲れ。阿須波は下がれ。鈴華、今からお前をある人の元に連れていく」


「ある人ですか」


 不安になる私の両肩に阿須波様が優しく手を添えた。振り向くと柔らかく微笑む彼女に不安が和らいだ。


「不安になる必要はない。今から会いに行くのは瀬織津姫せおりつひめという神。俺の上司のような人だ」


「瀬織津姫様ですか」


「水を司る女神様です。初代巫女様を導いた方でもあります。裏巫女様のことも一番ご存知なのできっと教えてくださいますよ」


 巫女のこと、裏巫女のことを知っている女神様。会うのは正直怖いけれど、裏巫女のことを知るいい機会だと思った。

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