第37話 封印の地②

 翌日、私たちは阿須波様と瀬織津姫様に見送られて闇淤加美神様の封じられている地へと赴いた。庭にある池で瀬織津姫様が何かを唱えると水面に岩山が映る。先に祈雨様と止雨様が池の中に飛び込んだ。闇御津羽神様が差し出した手に自分の手を重ねると共に池の中に身を鎮めた。元いた外の世界からここにきた時と同じでゆっくりと沈んでいく感覚。彼が握ってくれている手の温もりのおかげで不安はない。降り立った地は池から見えた針のような岩山がそびえ立つ地だった。祈雨様と止雨様が周囲を調べて危険がないか確認を終えた後闇御津羽神様に報告しに来た。


 岩山の反対側は荒野になっていて人間が立ち入っていないこともあって草が所々に生えている程度でなにもない。ただ、それは普通の眼で見た場合だ。受け継いだ眼は違う光景を見せてくる。荒野には多くの魂が嘆いていた。多くの魂たちがかつての戦争を再現しているのか殺し合っている。彼らにとってはまだ戦争中なのだろうか。


「っ……」


 頭痛がしてふらついた私の肩を闇御津羽神様が支えてくれた。ずきずきと痛む額に手を当てて痛みを堪えている間にも呼吸が浅くなる。怖い。今まで見た魂とは全然違う。


「鈴華、鈴華! しっかりしろ!」


 闇御津羽神様の声が聞こえるけれど、呼吸は浅いまま。頭痛も治まらない。痛みか恐怖か、自然と涙がこぼれる。

 そんな中、肩を強く掴まれて強制的に身体を振り向かされると彼が強く抱きしめてきた。彼の体温と鼓動にだんだんと呼吸が落ち着いてくる。頭痛も少しだけ和らいだ。


「鈴華、落ち着いたか。何を見たんだ?」

「魂、が。嘆いていて。それにまだみなさん戦争を続けています」


「私たちには何も見えませんが」

「巫女の眼には戦争の光景が見えているんですね。僕たちにはただの荒野にしか見えないのに」


 この眼の力が見せている光景は私にしか視認できていない。これは本来、巫女としての責務を果たせと警告されている気がした。私にできることは彼らを鎮めること。まずはここの空気を浄化するのが先か。


 私は闇御津羽神様に礼を言うと彼から離れた。心配そうな彼らに笑みを向けて安心させて未だに争っている魂に向き合う。これが戦争。剣で互いを傷つけ合い、殺し殺され仲間が死んだらその相手を殺し、繰り返される行為。魂はこの地に留まり続けているせいか終わらない。誰かが終わらせないと彼らは解放されず、生まれ変わることができない。


「きっとこれが本来の巫女の務め」


 だから魂が視えるんだ。納得した。彼らに終わりを次への道標みちしるべを。

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