第27話 止雨の心中

「あの阿須波様。これを止雨様と祈雨様にも差し上げたいのですが」


「お作りになったのは鈴華様ですので、判断はお任せしますよ。ああ、でも、闇御津羽神様は嫉妬深いので見つからないようにしてくださいね」


「はい。ありがとうございます」


 私はさっそく二種類の菓子をそれぞれ包んで止雨様に渡した。私よりも幼い掌に包みが乗せられる。止雨様が見上げて満面の笑みを向けてくる。


「ありがとうございます! 鈴華様。祈雨と一緒に食べます」


「いえ。お礼を言われるほどでは。こちらこそ、いつも傍にいてくださりありがとうございます。少しばかりのお礼になれば」


 いつも護衛として傍にいてくれる二人にお礼がしたかったから良かった。伝えられたことに安堵していると、未だに見上げたまま固まっていることに気づく。


「止雨様?」


 声をかけると止雨様はハッとして曖昧な笑みを向けると受け取った包みを大事そうに胸元に寄せた。


「僕たちのこと闇御津羽神様から聞いていますよね? 僕が本当は闇御津羽神様ではなく、闇淤加美神様に仕えていたこととか」


「はい」


闇淤加美神くらおかみ様と巫女の件以来、僕は人間が嫌いでした。いや、怖かった。お二人には幸せになってほしかったのに簡単に奪われて。今も僕はあの時の光景が焼き付いていて離れない。だから、人間には近づかないようにしていたんです。でも」


 止雨様の頬に涙が伝っていく。私は膝を折って止雨様と視線を合わせて続きを待った。


「鈴華様が来て、少しずつ接していくうちに思い出したんです。闇淤加美神くらおかみ様の傍にいた巫女も同じように僕に笑いかけてくれたこと。話したこと、楽しかった時間どれも大切だった。鈴華様と巫女はぜんぜん違うけれど、それでもあの方に重ねてしまったんです」


 涙声で語る姿は私よりも幼く見える。片手で包みを持ちながらもう片方の袖で涙を拭う止雨様を私は抱きしめていた。


 息を吞んだのを感じながらもそのままギュッと抱きしめる。


「構いません。私はその方になれないですけど、止雨様が少しでも心安らぐなら」


「鈴華様」


 泣き出した止雨様につられて私も泣きそうになる。


 闇御津羽神くらみつは様から話を聞いただけでも闇淤加美神くらおかみ様と巫女のことは胸が苦しくなるのに、一番側にいて二人を見守っていた止雨様はもっと辛いだろう。


 こうして泣いている姿だって珍しいのだろう。阿須波様の方を見ると驚いてた。


 今の私に出来ることはこうして抱きしめることだけ。止雨様が泣き止むまで私は抱きしめていた。

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