第28話 朝食前
差し入れを包んで
喜ぶ顔と不機嫌な顔を交互に浮かべている自分に驚く。今まで経験したことのない感情。これはなんだろう。分からなくて私は首を傾けた。
「鈴華様、そろそろお休みになられては?」
「
「大丈夫ですよ。闇御津羽神様は絶対に喜びます。だって鈴華様がお作りになったものですよ? 反応が楽しみですね」
阿須波様はそう言うと小さく肩を揺らした。笑う姿まで綺麗な方だ。白く細い指、黒く長い髪を結い、金色に赤色の宝石がついた髪飾りをつけている。
ここに住まう人たちはみんな端正な顔立ちをしている。祈雨様も止雨様も似た容姿ではあるが、目つきが異なる。
止雨様の方が少し鋭い。髪型は長い黒髪を高く結い上げて流している。若干結ぶ位置が違うのも二人を観察していて最近気づいたことだ。
「鈴華様?」
「あ、すみません」
ぼんやりと見つめていると心配そうな表情の阿須波様が声をかけてきた。首を左右に振り思考を散らして自室に戻った。
翌朝、いつも通りに起床して身支度を整えてから朝食の手伝いのために台盤所に向かう。
今日の護衛は祈雨様だ。歩きながら後ろをついてくる祈雨様が声をかけてきた。
「鈴華様、昨日は菓子をありがとうございました。美味しかったです。それと」
途中で言葉を切った祈雨様に私は足を止めて振り向いた。穏やかな少年が私を見上げて笑顔を向ける。
「止雨の弱音を受け止めて下さり、ありがとうございました。あいつが弱音を吐くなんて珍しいから。巫女が鈴華様で良かったです」
「いえ。私は巫女と言いますか、偽りの巫女ですので」
「鈴華様は巫女ですよ? 偽りだなんて言わないでください」
見上げてくる祈雨様は柔らかく微笑んで私の手を幼い両手で握った。神様に近い存在ではあるけれど、この手は人と同じで温かい。
私は返す言葉が見つからず曖昧に笑った。巫女の資格は得ているとは言え私が正当な巫女になれるとは思えない。
「祈雨~、鈴華様はまだ……あ!」
「え、止雨?」
「止雨様」
呼びに来るとは思わなかった人物に驚いて私たちはビクッと肩を揺らした。いつもなら台盤所から呼びに来ることはない。
そもそも止雨様がここにいるということは闇御津羽神様が近くにいるということ。何かあったのだろうか。
「どうしたの止雨。闇御津羽神様は?」
「ん? その闇御津羽神様が来てて鈴華様を待ってるから呼びに来た」
「なんで? 仕事は?」
「仕事は早めに終わらせたっぽいよ。それよりも早くしないと闇御津羽神様来ちゃうよ」
二人は私たちと話す時とは異なり双子の兄弟のように砕けた話し方をする。
一人っ子の私は姉妹というものが分からないけれど、いたらこんな感じなんだろうなと思う。微笑ましく見ていると背後から声がした。
「いつまでも来ないから見に来てみれば何をしているんだ」
「あ、主様」
「げ、闇御津羽神様」
声が重なり二人は互いに抱きついた。彼らの見上げる視線を追って振り返ると闇御津羽神様が腕を組み立っていた。
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