第32話 巫女を続ける条件

「あら、その瞳は魂の本質を見抜く。貴女は今私の姿が見えていますね?」


「は、はい」


「そうですか。闇御津羽、鈴華。二人に問います。このままでは貴族は巫女の選出に関して納得しません。ですが、説得して本来の巫女が務める期間でいったん落ち着かせました。四年経てば再び新たな巫女を選ばなければなりません。貴方たちは四年以上経っても巫女を続けたいですか?」


 天照大御神様の問いに私は言葉が詰まった。答えは続けたい。けれど、私は本来選ばれるはずのない巫女。


 貴族様たちを差し置いて庶民である私がここにいる。納得していないのも当然だ。だから本来なら貴族様たちに返すべきなのに私はここにいたい。


 巫女を続けたいと思っている。


「当然だ。俺は鈴華がいい」


「そうですか。では、鈴華。貴女は?」


「私、は。許されるなら続けたいです」


「分かりました。答えは聞かなくても分かっていましたが、二人から直接聞きたかったので問わせてもらいました」


 天照大御神あまてらすおおみかみ様が小さく笑う。その姿は阿須波様とは全然違う。美しさは変わらないが、上品、神々しさがある。


「巫女が必要だった私は昔、貴族と契約をしました。神は約束を違えることができません」


 神である天照大御神様は初代巫女の子孫を巫女として選ぶように貴族側と契約した。だから貴族から巫女が選ばれていた。


 神が契約を違えることは許されない。今回だけ特例だっただけだ。やはり無理なのだろう。


「それは」


闇御津羽くらみつは、最後まで聞きなさい」


 闇御津羽神様の言葉を遮る。ぐっと言葉を呑み込んで天照大御神様の続きを待つ。


「貴族との契約を変えるためには初代巫女以上の偉業を成さなければなりません」


「偉業ですか?」


「ええ。初代巫女はさまざまな場所で多くの魂を救い、さらに荒魂を鎮めました。それ以上のことを貴女には要求しなければなりません」


「天照大御神様それは!」


 止めようとする闇御津羽神様を片手で制した天照大御神様は私を見つめた。


「鈴華、貴女には多くの魂を鎮めてもらいます。さらに、闇淤加美のことを聞いていますね? 貴女には闇淤加美を鎮めてもらいます」


「危険すぎます! そこまでしなくても」


「黙りなさい。闇淤加美の封印はすでに解けかけています。それに闇御津羽、貴方にかけられた呪いの浸食は今も進行しているのでしょう。浸食が終わるまでにもう時間がない」


「え?」


 闇御津羽神様を見ると事実なのか顔を逸らした。心臓を掴まれたように苦しくなる。


「呪いの浸食が終わればどうなるのでしょうか」


 聞かずにはいられなかった。嫌な予感が胸を占めていく。


「呪いの浸食終わればもちろん待っているのは死。神とて呪いの前にはあっけなく死ぬのです」


「そんな」

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