第31話 天照大御神
抱きしめていた彼は満足したのか腕を解いた。顔を上げた先、私を見つめていた彼と視線が交差する。
自然と近づく距離。あと少しで唇が触れそうな距離で部屋の外から声がした。慌てて私たちは離れる。声の主は止雨様。
「
「どうした騒がしいぞ」
焦りの色を濃くした止雨様と祈雨様が部屋に入ってくる。闇御津羽神様は心なしか不機嫌に見えた。
床に片膝をついて
「
「いらっしゃいました」
交互に告げられた言葉を聞いて闇御津羽神様の表情が険しくなる。天照大御神様と言えばこの国の最高神だ。
「鈴華、来るぞ」
緊張で喉が渇く。ゴクリと喉が鳴った。神気が近づいてくる。足音が部屋のすぐ近くで止まった。
「阿須波様?」
入ってきたのは阿須波様。けれど、雰囲気が全く違う。彼女から溢れる神気に身体が勝手に跪く。この方が天照大御神様。
「天照大御神様、お久しぶりです。何用でしょうか?」
隣で跪く闇御津羽神様が問いかける。
「久しいですね、闇御津羽。私がここに来た理由ですか。簡単ですよ。貴方、今回貴族の反対を押し切って巫女を自分で選びましたね?」
「はい。そうです。最近の巫女は力が衰えているばかりか、貴族の立場を利用してここでの振る舞いは目に余っていました。前回の巫女にいたっては御霊送りの儀式を失敗。鈴華がいなければ荒魂が生まれていたかもしれません。これでも貴族から選ぼうとは思えません」
「貴方の言いたいことは理解できます。が、そのことで私のところに貴族から抗議がいくつも届いているのです」
二人の会話から私を巫女に選んでくれたのは貴族の反対を押し切って無理やり進めたもの。やはり私は本当の巫女にはなれない。
こうして天照大御神様が阿須波様の身体を借りて降臨するくらい大事なのだろう。針がちくりと刺すような痛みが胸に感じる。
表情を崩さないように奥歯を噛み締めて真っ直ぐ天照大御神様を見つめる。
「鈴華と言いましたね。闇御津羽が初めて選んだ巫女。ああ、貴女の瞳は綺麗な紫色。初代の巫女と同じか、それ以上。なるほど」
視線に気付いた天照大御神様が私を見て微笑んだ。見た目は阿須波様なのに雰囲気が異なるせいか別人に見える。
次第に神気が阿須波様に馴染み別の女性の姿が重なって見えた。長い黒髪に金色の髪飾りに付け、勾玉を首から下げている美女が立っている。
この方が天照大御神様なのだろう。
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