第39話 封印の地④ 西の巫女の過去

 彼女にとって大事な物なのだろう。透けた指で簪を撫でている。視線を瑠姫様に移すと突然光景が変化した。傍にいたはずの祈雨様と止雨様の姿が消え、荒野から室内に変わり困惑する私の隣に瑠姫様が立ち部屋の入口を見つめている。私もつられて同じ個所を見つめた。すぐに室内に入ってきたのは漢服のような服に長い黒髪を一部結い上げて梅の髪飾りをつけている。右の目元にはほくろが一つ。瞳の色は琥珀色の優しそうな印象の女性。彼女は私の隣にいる瑠姫様とそっくりだ。いや、瑠姫様本人なのだろう。おそらく今見ているのは彼女の過去。どうして見ることができるのかは分からない。


 一人でいる瑠姫様の部屋に止雨様が来た。身長に合わせて身を屈めて迎える瑠姫様は笑顔だ。


「闇淤加美神様の傍にいた巫女も同じように僕に笑いかけてくれたこと。話したこと、楽しかった時間どれも大切だった」


 楽しそうに会話をする二人を見ながら止雨様が以前言っていた言葉を思い出した。


「瑠姫様、主様が呼んでいます。一緒に行きましょう」


 手を引いて先頭を歩く止雨様についていく瑠姫様。その後を歩き始めた瑠姫様に私もついていく。少し歩いて部屋の前で止雨様が立ち止まり、瑠姫様を室内へ通した。中には闇御津羽神様にそっくりな男性が一人いる。似ていても彼ではないことは分かる。


「この方が闇淤加美神様?」


 こぼした言葉を肯定するように瑠姫様が静かに頷いた。


「瑠姫、突然呼び立ててすまない」

「いいえ。何か御用でしょうか。またどこかで戦が? 魂を鎮めに行くのでしょうか?」


「いや、違う。瑠姫落ち着いてくれ」


 意気込んでいる瑠姫様は今にも部屋を飛び出しそうだ。闇淤加美神様が彼女の両肩を掴んで留まらせる。落ち着いた瑠姫様は闇淤加美神様をジッと見上げた。

 愛らしい見た目の瑠姫様に見つめられた闇淤加美神様は顔を逸らして咳払いをする。落ち着かない闇淤加美神様は視線を彷徨わせた。


「あの、闇淤加美神様?」

「あ、ああ。すまない。君を呼んだのはその」


 もう一度咳払いをした闇淤加美神様が机の上に置かれた木箱を手に取った。不思議そうな顔をして木箱と闇淤加美神様を交互に見つめる瑠姫様の前に木箱が差し出される。蓋を開くと中には桜の花の形がたくさんあしらわれた金色の髪飾りが入っていた。


「瑠姫。これからも共に多くの魂を救ってくれるか? これはいつも頑張ってくれている君への贈り物というか、その、どうか受け取ってくれないか」


「これを私にですか? 綺麗」


 髪飾りを手に取って天にかざす瑠姫様は微笑みながら自分の髪に挿した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る