第5話 御霊送りの儀式①
あっという間に神楽殿に到着した私が見たのは気を失っている巫女様と彼女を介抱している一人の女官朝服姿の若い女性。
悲鳴を上げたあと何かがあって巫女様は倒れたのだろう。巫女様の傍にいた女性が闇御津羽神様に気づいて立ち上がった。
「闇御津羽神様、お帰りなさいませ。あの、そちらの方は?」
「神楽殿の反対側にいた。裏巫女のことは知らないらしいが、神歌を唱えられるそうだ。詩寿子の娘というから一応信頼して連れてきた」
「なるほど。あの方の娘様であれば納得です。お名前を聞いても? 私は阿須波(あすは)と申します。闇御津羽神様にお仕えしており、主に巫女様のお世話を担当しております」
「私は
私の問いに阿須波様は頷いた。
「無駄話は後にしろ。今は魂を鎮めるのが先だ。
「はい」
祈雨と止雨と呼ばれた二人の童子は闇御津羽神様を護衛するように森から付いてきていた。
漢服に腰に剣を携え、髪を結い上げている童子は頷くと神楽殿の隅に置いてある和琴の前に一人が座り、反対の隅にもう一人が座り横笛を構えた。
阿須波様が中央に私を案内する。
「鈴華様。突然のことで戸惑っていると思いますが、今はあなただけが頼りなのです。まだ間に合います。どうか魂を鎮めてください」
深く頭を下げる阿須波様に私は頷いて息を深く吸い込んだ。緊張はしている。けれど、不思議と先ほどまでの震えはない。
ただ自分の成すべきことをする。倒れた巫女様の代わりが私に務まるか自信はないけど。
和琴と笛の音が鳴る。それに合わせて私は口を開いた。
「
唱えている途中でうめき声が神楽殿の下から聞こえ悪寒が走る。森に散らばっていた魂が集まってきていた。
なにかを訴えているようにも、泣いているようにも見える。背後で
「そのまま続けていろ」
彼に従い私は続けて唱える。
「
唱えながら黒い塵が少しずつ剥がれていくのが見えた。もう少し、もう少しで全員の魂を救える。安心が油断に変わった瞬間だった。
「鈴華!」
焦った闇御津羽神様の声に反応出来た時には目の前に神楽殿の柱を登ってきた魂が立っていた。他とは明らかに異なる形。
白っぽい半透明な人型の魂ではなく、頭部に角のようなものを生やし、黒く変色した魂はキヒヒ、と不気味な笑い声を上げながら近づいてくる。
逃げようにも足がすくんで動けない。儀式を途中で止めることもできない。
襲われることを覚悟してきつく目を瞑った私は襲ってこない痛みに薄っすらと目を開けた。
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