第18話 虹の勇者の才能
「どうしたんだろう。皆急にダレてきたんだけど……」
「おそらくバートランド様が同時発動をしたからではないか、と」
スキルトの疑問にクラウフォーゼが即答した。
「同時発動ってそんなにがっかりするもの?」
「おそらく“虹の勇者”だからできると思われたのでしょう。ここは現実を直視させないと、バートランド様がさらに孤立しかねませんわね」
「じゃあどうすれば?」
「私たちもやってみせればいいのですわ。スキルト、〈火の矢〉と〈火球〉は同時に出せますわよね? 私は〈鼓舞〉を発動したまま〈光の矢〉を放ちます。それを見たら、タリッサもラナ様も気づくと存じますわ」
クラウフォーゼの言葉が終わる前に、スキルトは〈火の矢〉と〈火球〉を同時発動させて敵陣を襲う。続けてクラウフォーゼが〈鼓舞〉したまま〈光の矢〉を放つ。これで他のふたりにも意図は伝わったはずだ。
「あのふたり、こちらを援護しているのではないな。必要のない攻撃をあえてしているのだとすると……」
ラナはそれまで固まっていた空気が動き出したように感じたようだ。
「そういうことか。タリッサ! 同時発動だ!」
それぞれ〈柳の鞭〉と〈徹甲の矢〉、〈水の矢〉と〈水の球〉を同時発動する。
均衡していたはずの戦力差が一挙に傾いた。今まで五つの魔法が飛んでくるのがよいところを、最大十の魔法にさらされるのだ。物量が一気に倍加したので、対戦パーティーはまったくなすことなく倒された。敵陣はピクリとも動かない。
「勝負あり! 試合終了。バートランド・パーティーの勝利! 繰り返す。試合終了。バートランド・パーティーの勝利!」
その言葉を聞くと、バートランドとクラウフォーゼは敵陣へと駆け込んだ。
想像以上の魔法の飽和攻撃を受けたのである。思わぬ重傷を負っている可能性も否定できない。
どんなに優勢でも、相手を死なせてはならない。適度に抑制された魔法を使えなければならないのが、模擬戦の鉄則である。
幸い重傷を負った者はいなかった。
タリッサ、ラナとともに負傷した四名を一箇所に集めて、バートランドはクラウフォーゼとともに〈治癒〉の魔法をかけていく。もちろん同時発動をして四名をいっぺんに癒やしていく。その光景を見ていた観客からは、大きな拍手が沸き起こった。
“聖女”として名高いクラウフォーゼは別としても、“虹の魔法”使いバートランドが彼女と同等のことをやってのけている事実は覆しようもない。
どんなに才能を妬む者でも、現実に繰り広げられている「魔法の同時発動」は否定しようもない。
最初にバートランドが同時発動をしてときは呆気にとられたものの、他のメンバーも同時発動してみせたのは、在学生のよい刺激になったようである。
魔力の効率もよくなったため、前回の魔法試験のトーナメント戦よりも短時間で全員を治癒してみせた。
控室へと引き上げてきた一行を待ち受けていたのは赤の導師だった。
「スキルト、ずいぶんと魔力を操れるようになったな。同時発動で〈火球〉も使いこなせるようになるとはな」
「老師、これで卒業のための課題は達成したんだよね?」
導師はホッホッホとひと声出すと、ニンマリとした表情を見せた。
「ああ、合格じゃ。しかも全員が同時発動できるようにまでなっておったとはな。嬉しい誤算じゃて」
スキルトはよっしゃーと叫びながら両拳をぐっと握って突き上げた。
「ところで“虹の勇者”よ」
導師が話し相手を変えた。
「お主、何色の魔法を同時発動できるのじゃな?」
「今は三色までならなんとか、ですね」
「まあそこまでできるようになればよかろう。後は自分で極めていけばよい」
赤の導師に認められたのでスキルトはわがことのように喜んでいる。
「ちなみに、どのような手順で同時発動しておるのだ?」
バートランドが手短に伝えていく。
「なるほどな。魔力の収束する意識を分割しているわけか。手堅い方法ではあるな」
「他にやり方があるのですか?」
「おそらく単色の魔法使いにはこの方法しかあるまいて。しかし“虹の魔法”使いとしては、さらに奥義があると伝え聞いたことがある。まあ伝聞だから真偽のほどはわからんがの」
ここまでいうとまたホッホッホとひと声出した。
「それじゃあお主ら、全員卒業だ。まだアイテムの鑑定に時間がかかっているから、今すぐにとはいかぬがな。鑑定が終わってアイテムの行方が定まったら、正式に卒業することになるからな」
赤の導師に向かってバートランドは深々とお辞儀した。
「赤の導師様、これまでのご助力に感謝申し上げます」
タリッサ、スキルト、ラナ、クラウフォーゼもそれに合わせてお辞儀をする。
「なに、導師としては学生に教え込むのが仕事じゃからな。もちろん学生のやる気が伴わなければ実にはならんがの。ラナ様もクラウフォーゼ嬢もよくここまで精進なされた。皇族と神殿の代弁者として申し分ないレベルに達しておられる。ただ、ふたつの同時発動だけでなく、“虹の勇者”のように三つの同時発動まで持っていくのだな」
「導師様、わたくしたちはすでに三つの同時発動を磨いている最中です。バートランド様が三色の同時発動をしてみせたので、今は全員が取り組んでおりますわ」
クラウフォーゼが丁寧に伝えた。
「三つ同時発動はすでに導師級じゃよ。たとえばほれ」
控室に〈火の矢〉と〈火球〉それに〈火の壁〉が同時に出現した。
「老師すごい! かっこいい! スキルトも絶対やれるようになりたい!」
「まあお前ならすぐにこれくらいできるじゃろうて」
三つを同時発動したにもかかわらず、呼吸ひとつ乱れていない。やはり長年導師を続けているので、このくらいのことはなんでもないらしい。
「いくつの魔法を同時に使えるようになるか。それが実戦での強さに直結することが多々ある。今は三つ同時発動ができなくても、いずれはできるに
そういって差し出した手のひらの上に金属の札が二枚載っている。
「スキルトとバートランドの卒業許可証じゃ。これを持って学園長に渡せば、その場で卒業ということになる。ラナ様もクラウフォーゼ嬢もタリッサも、それぞれの導師から卒業許可証を受け取ってきなさい。手元において、アイテムの鑑定結果がわかるまで保管しておくんじゃな」
はいと答えると、改まった態度を見せた導師が続けた。
「卒業しても探索者の館が割り当てられるまではうちの施設を使ってかまわんよ。駆け出しの探索者をほっぽっといたら、すぐに野垂れ死にしてしまうからの」
もう一度ホッホッホと口にしてから手を振る。
「後は学園長に聞くといい。お主たちの今後の活動方針もあることじゃしの」
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