励磁で世界の終末を救うハーレム崩れの虹の勇者

カイ艦長

励磁ハーレムは何極か

第一章 極大魔法の次は初級者魔法?!

第1話 魔法試験

 試験場に高らかなホルンが鳴り響いた。

「戦闘開始だ。タリッサ、ラナ、突撃するぞ!」


 要所に青赤緑白黒の各色をあしらった鎧を身に着けた男学生バートランドは、仲間の女学生“才女”タリッサと“姫騎士”ラナとともに前衛を務めている。


「タリッサ、〈水の壁〉を!」


 青い鎧をまとったタリッサが青の魔法を発動させて敵の視界を奪おうとする。生じた死角へとまわりこんだバートランドは、学園随一の剣術を誇る緑の鎧に身を包むラナとともに猛攻を仕掛けた。


 バートランドにとってタリッサは隣り合った商家の娘であり、幼馴染みだ。これまでの付き合いから、このタイミングで彼女に魔法を使わせるのは当然の判断だ。

「〈火の球〉!」

 敵から赤の炎魔法が飛んできてタリッサが仕掛けた目隠しの〈水の壁〉を水蒸気となって散っていった。

 さらにバートランドたち前衛の三人は華麗なステップを踏んで〈火の矢〉を回避した。今攻撃を仕掛けてきた赤の鎧を着た魔法使いへと狙いを定めた。


 標的にされた赤の魔法使いは後ろへ軽やかにステップを踏む。その間に緑の魔法使いが割って入る。

「させるか!」

 突如として現れた敵に対して、ラナは緑の魔法で〈木の盾〉を生み出し、敵の初手を封じて弾き返した。

 敵は前線が崩れていき、後退して立て直そうとしている。

「よし、今だ。一気にケリをつけるぞ!」

 スキを突いて、さらにバートランドたち三人は前へと踏み込んでいく。

 後方から戦況を見守っていた白の鎧の“聖女”クラウフォーゼが白の魔法〈加速〉を発動させた。途端に前衛三人の体が軽くなり、動きがスピーディーになる。


 青の短髪で快活なタリッサは、混乱を最大化させようと敵の分断を図った。

 企みを察知した灰色の短髪のバートランドと緑の長髪を兜に収めているラナは、それぞれ魔法を発動しようとする敵魔法使いへと近接戦闘を挑んでいく。


 緑の魔法使いの動きを制したタリッサはそのまま剣技で押し込んでいった。ラナはそれを脇目で確認しながら回復役である白の魔法使いのひとりに仕掛けて行動を制限する。バートランドはもうひとりの白の魔法使いで敵パーティーの主将を務める男学生の足をかけて転倒させた。


 それまでクラウフォーゼの隣で推移を見守っていた赤の鎧の“魔女”スキルトが赤の極大魔法〈爆炎〉を放つ準備に入った。

 スキルトの動きを察知したバートランドは慌てて注意を出した。

「早まるな、スキルト! もうちょっと待って!」


 その言葉に敵の主将は〈光の矢〉を放ってスキルトの邪魔を試みる。赤い髪のスキルトの隣にいるウエーブがかった金髪のクラウフォーゼが〈光の盾〉でそれを冷静に防いでいく。

 それでもスキルトの心に生じた惑いは膨らんでいく。瞬間的に魔力が増大し、抑制のきかなくなった炎が前線へ放たれようとしていた。

「スキルト、早まらないで! まだ放つタイミングではないわ!」

 切羽詰まったクラウフォーゼが慌てている。


 その気配を察したバートランドはもはやスキルトを止めるのではなく、被害が拡大しないことを優先して行動に移した。

「タリッサ! スキルトのフォローだ!」


 緑の魔法使いを存分に押し込んでいたタリッサは、名残惜しそうな表情を浮かべながらも前線から退く。

 そして〈爆炎〉の火力を削ごうと立て続けに青の魔法〈水の球〉を放出する。しかし相手は制御から外れた極大魔法でありすでに現れている炎だけでもいくらか消火した程度で大した効果がない。

 この程度の魔法では威力を削げないと判断した。

「タリッサ、〈水の檻〉だ! 僕も加勢する!」

 彼女のそばにたどり着いたバートランドも青の魔法を現出させてその動きを補助した。するとタリッサの青の極大魔法がさらに強くなる。

 青の魔力同士が磁石のように引かれ合い、威力を増したのだ。

 そこに抑制から外れた暴発して容赦のない〈爆炎〉が飛んできた。分厚い〈水の檻〉に炎の極大魔法が突っ込み、威力を減じられてもなお強い炎は〈水の檻〉を打ち破って四方へ散じた。


 二人がかりでも消滅させられないほどの魔力を見せつけたスキルトだった。慌てた表情で右往左往している。

「どうしよう、どうしよう!」

「スキルト! 〈炎の矢〉で牽制するんだ!」

 バートランドの声で我に返ったスキルトは、敵の主将へ矢継ぎ早に〈火の矢〉を叩き込んだ。チャージする時間がほとんどないにもかかわらず、大きくムラはありつつも強い炎が繰り出される。タリッサとバートランドは瞬時に敵との距離を詰めていく。


「ラナ! 突撃だ!」

 緑の“姫騎士”ラナが、風のような立ち回りで、バートランドによって転倒していた敵主将を落としに向かった。皇女でありながらも鎧を着込んで自ら前線に立ち、いともたやすく敵を打ち倒していくさまは“姫騎士”の異名となって帝国で知らぬ者はいなかった。


 緑の疾風となって敵陣深くへ切り込んでいき、あっという間に敵主将の抵抗を排してその喉元へ剣先を突きつけた。

 タリッサとバートランドもほどなく彼女に追いつき、剣を構えて残りの敵に視線を走らせて牽制する。


 今誰かが動けば敵主将の命はない。ラナ、バートランド、タリッサの気迫に他の者は手の出しようもなかった。


 無音で誰もが微動だにしない。緊張感あふれる時間が続く。


 すると始まりと同様、高らかなホルンが鳴り響いた。


「勝負あり! 試合終了。バートランド・パーティーの勝利! 繰り返す。試合終了。バートランド・パーティーの勝利!」


 審判役の教師がバートランドたちへ勝ち名乗りをあげる。

 観客だった学園生たちが散発的な拍手でそれに応えた。


 魔法試験で優秀な成績を収めたパーティーは、魔法学園を卒業して遺跡探索者として独り立ちする権利が与えられる。

 此度のバートランドたちの戦いはじゅうぶん卒業の基準に達していたと言ってよい。

 ただし、すぐに遺跡探索者になれるわけではない。バートランドたちも三年間試験で不敗を誇っていたが、これまで卒業を許されていなかった。


 赤の魔法使いの“魔女”スキルトは規格外の魔力を誇り、彼女がパーティーにいるだけで他のパーティーとは不公平このうえない。

 しかも不公平はスキルトだけではなかった。

 “姫騎士”であり剣技で学園随一のラナ。総合成績では優秀者の席に座り続ける“才女”タリッサ。“聖女”として日頃から奉仕活動に携わっているクラウフォーゼもいる。

 そのため、誰が率いてもこのくらいの実力は発揮できるのだと他の学生から見られている。


 彼女たちを従えているバートランドを“ハーレム野郎”とやっかむ声は多い。

 それも彼が救世主の伝説上の存在“虹の勇者”の候補であることが大きく関わっていた。



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