第24話 初の三色混合魔法【第三章完】
洗濯済みの服に袖を通して身だしなみを整えた女性陣は、タリッサとスキルトによる〈シャワー〉にクラウフォーゼの白を合わせて〈泡風呂〉の作り方を試行錯誤していた。
「〈加熱〉は〈シャワー〉ほど強くなくてもよいかもしれませんわ。〈湧き水〉と〈浄化〉を強めて豊富な〈石鹸水〉をまず作り、それを〈加熱〉してみたらどうでしょう。これなら〈加熱〉のコントロールだけで模索できますけれども」
「でもやっぱり水量が多いからこその〈泡風呂〉だと思うんだよねえ。だから、まず赤と白を組み合わせて、そこに青を調整して加えるのが近道じゃないかな?」
「ということは〈加熱殺菌〉からということになるのだが、それで泡が出るのか? 〈石鹸水〉を加熱するほうが作りやすいと思うのだがな。どうかなスキルト?」
「でも水量は欲しいよね! バートの〈泡風呂〉みたいにブシューッて放出されると気持ちいいじゃん!」
〈泡風呂〉を無から生み出せるのは、今のところ“虹の魔法”使いであるバートランド以外にいない。
彼の従者とはいえ一色の魔法しか扱えないのだから、さまざまなバランスを考えながら、〈泡風呂〉という目に見えるゴールへ研究を続けなければならない。
だが、すぐに生み出せるはずもない。なにしろ三色の魔力が交じるため、互いが干渉し合っているのかもしれなかった。現に青は赤を剋し、赤は白を剋す。そして白は青を生じる。この関係では青が最も優位で、白が最も低位ということになる。よほど白が強くなければ存在を主張できないのだ。
しかし三色のバランスがとれていれば、きっとうまくいくはず。そのバランスが難しいのだが。
そこで彼女たちは試しに井戸水を焚き火で沸かして適温に薄めたお風呂に白の〈浄化〉を使うことで〈泡風呂〉は生み出してみた。こうして生み出した〈お湯〉には青と赤の魔力が用いられていないからだ。
どの魔力もないために、白を混ぜるだけで再現できる。
ただ、水量の調整ができないので、そこは青の魔力が必要だ。しかし〈湧き水〉で温水の流量を調整すると、〈湧き水〉は温めていないのでだんだん水温が下がっていく。
となれば焚き火をしながらそこに〈湧き水〉で水量を調整してから〈浄化〉を用いれば〈石鹸水〉が冷めぬまま〈泡風呂〉にすることもできなくはない。
また神殿から支給される石鹸も白の魔力を用いていないため、青の〈湧き水〉と赤の〈加熱〉を混ぜて〈シャワー〉にしてもふたつの魔力だけしか用いていないので、こちらも〈泡風呂〉にすることはできる。
水量と水温を同時に操るためには、このやり方が今のところベストだろう。
しかし、なんの準備もなく、無から〈泡風呂〉を生み出せなければ、他のパーティーも使える汎用的な魔法とは呼べない。
“虹の勇者”だけが使える魔法ということになってしまうのだ。
そこで石鹸を用いて〈シャワー〉と組み合わせた〈泡風呂〉を調合申請書に書き込むべく、青と赤のバランスを探っていく。
「ただいま。〈泡風呂〉の申請をしてきたよ。まあ三色の魔力を用いるから導師から渋られたけどね」
「あ、いいところに来たよ、バート!」
「私たちも〈泡風呂〉のレシピを作っていたところなんだ」
タリッサが青の短髪を振り向かせた。
「僕のレシピから応用できないかな? 魔力のバランスだけなら参考になると思うんだけど」
「あら、そうですわね。すでにバランスがわかっているのですから、答案はすでにあるのでしたわ」
「君たちだけで探してみるかい? それともすでにわかっているのだから手間を省いてみるかい?」
緑の長髪を風になびかせたラナが口を開く。
「まあ効率でいえば教えてくれたほうがありがたい。どうせならまったく新しい魔法を生み出したほうが評価も高いが……。まあ私たちはすでに卒業が決まっているのだから、今さら成績の優劣を競っても
それではということで、バートランドが魔力のバランスを説明する。
「やり方の基本は〈石鹸水〉を温めるんだ。だから〈湧き水〉と強い〈浄化〉を組み合わせて〈濃い石鹸水〉を作って、それを〈加熱〉で温めるわけ」
「ではわたくしとタリッサでまず〈濃い石鹸水〉を作りましょう」
〈石鹸水〉はひじょうに単純なバランスで成り立っている。青の〈湧き水〉に白の〈浄化〉か〈殺菌〉を加えて混ぜるだけである。しかも青を強くすると〈液体石鹸〉になるが、白を強くすると少しずつ固まっていく。
神殿から支給される完全な〈固形石鹸〉は薬剤の調合で生み出すので、白の魔力を帯びていない。
だから〈固形石鹸〉を元にして、〈シャワー〉を使えば、理屈のうえでは〈泡風呂〉は作れる。しかしどれほどのバランスが適正かはひとつひとつ試さなければならない。バートランドは“虹の魔力”でそれを可能にするが、単色の魔力しか持ち得ない彼女たちには困難なことではあるが。
「タリッサは〈湧き水〉を安定させて。クラウフォーゼはいつもの〈石鹸水〉より強めに」
いつもより粘度の高い〈石鹸水〉が生み出された。これを赤の〈加熱〉で温めてやれば──。
「おっ、きた! 泡々のもっこもこ!」
「スキルト、〈加熱〉で水温が変わるけど、〈湧き水〉の水量を上げたら赤の魔法もそれに合わせて強めないとならないからね。しっかり集中すること」
今回はどうやら相性がバッティングしない魔法のようで助かった。これで以降のパーティーは汗を流すのに〈泡風呂〉が使えるようになる。ただし、全員同性の場合に限られはするのだが。
「それはそうと、いい話を聞いてきたんだ。北の国には〈蒸し風呂〉と呼ばれる施設があるそうだ。それを再現してみないかい?」
すぐに飛びついたのはスキルトだった。
「〈蒸し風呂〉? なにそれ、面白そう!」
「それより〈泡風呂〉のレシピを提出するのが先だろう。〈蒸し風呂〉とやらがどのようなものかしらんが、風呂というからには汗を流す手段が増えるわけだしな。それなら〈泡風呂〉を認めてもらうのが先決だ」
“姫騎士”ラナはスキルトの欲求を抑えた。
なんでもかんでもやれそうなことは手当たり次第に試そうとするきらいがある。木は火を生むため、赤を抑えるのも緑の役目であった。
「じゃあ今の〈泡風呂〉のレシピをさっさと書いちゃおうよ。タリッサ、レシピは任せた!」
「はいはい、任せられました。じゃあまず青の魔力で〈湧き水〉を出し、そこに白の〈浄化〉か〈殺菌〉を増やしていって、通常の〈石鹸水〉よりも濃いものを作る。そうしてできたものに赤の〈加熱〉を加えてお湯の温度を上げる、と。あとはバートランドから配分を聞けば……。これでいいのよね、バートランド」
「ああ、それでじゅうぶんだよ」
「よし、それじゃあ皆、職員室へ出発!」
スキルトが上機嫌で先頭を歩いてゆく。
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