第四章 単独行

第25話 鑑定結果

 学園長室に呼び出されてやってきたバートランドたちは、そこで青の導師と赤の導師が待っていることに気がついた。


「老師、どうしてここに!?」


 スキルトの驚きもわからないではない。ここは学園長室であって赤の導師の控室ではないのだから。

「実はお前たちが見つけたアイテムの鑑定結果を知らせようと思ってな」

「わかったのですか?」


 たしか学園長の話では正体不明だったはずなのだけど。

 そこへ学園長が戻ってきた。


「バートランドくん、ラナ様、クラウフォーゼ嬢、タリッサ、スキルト、待たせたな」

 その言葉にバートランドたちは敬礼をひとつした。


「今日呼んだのは他でもない。前回の遺跡探索で見つけてきたアイテムの鑑定結果を伝えるためだ。そして正式に卒業するための手続きも説明しよう」

 その言葉に皆の身が引き締まった。


「まずは青の導師、アイテムの説明を頼もう」

「かしこまりました、学園長」

 青の導師は学園長の執務机の上に置かれていた木箱を持ち上げた。


「このアイテムだが、どのような仕組みかはさっぱりわからない」

 バートランドたちはあまりの率直さにその場でつんのめりそうになった。


「いや、仕組みはわからないのだが、使い方のヒントは見つけた」

「ヒント……ですか?」

「ああ。口で言ってもわからないと思うから、実際にやってみようか。赤の導師、お願い致します」


 赤の導師は箱に近寄ってあのアイテムを手に持った。

「このアイテムは手に持って魔力をそそいでもなんの魔法も発現しない。つまり無用の長物に感じられるはずじゃ。じゃがな」

 学園長が窓を開けて外気を取り込んだ。

「これを持って魔法をかけようとすると……」

「えっ? ええっ!? ちょっ、ちょっと待って!」

 スキルトが赤の導師に向かって歩き出している。彼女が赤の導師にくっついた。


「そして単なる〈火の矢〉を放つと……」

 学園長が開けた窓の外へ向かって〈火の矢〉が飛んでいく。しかし単なる〈火の矢〉ではない。ゆうに〈火球〉の大きさを誇っている。それを見たバートランドたちは驚きを禁じえなかった。


「と、まあこのとおり。魔法の威力を底上げできることがわかったわけじゃな。赤だけでなく青、緑、白でも試したが効果は同様だったのじゃ」

「スキルトが赤の導師様に近づいていったのは、どういうことなのでしょうか?」

 クラウフォーゼは疑問を投げかけた。


「おそらくじゃが、魔力を底上げするために外から赤の魔力を補充する役目を負っているのだろう」

 アイテムの鑑定士である青の導師の言葉だ。


「つまり、同色の魔力が所有者に流れ込む、と考えればよいのでしょうか?」

「それがそうとばかりも言えないのだよ」

「どういうことでしょうか?」

 バートランドは頭を捻った。


「どうやら男がこのアイテムを使うと女が引き寄せられる。そして女が使うと──」

「男性が引き寄せられる……ということですか?」

「ああ、そのとおりじゃ。わしが〈火の矢〉を唱えようとしたら女のスキルトが引き寄せられたからの」

 ホッホッホと笑い声が聞こえる。


「ならば、“虹の勇者”が使ったらどうなるのだ?」

 “姫騎士”ラナがそう尋ねたのも不思議はなかった。


「それはわからん。この世に“虹の勇者”はひとりしかおらんからの。ただ、この検証が間違っていなければ、男の“虹の勇者”の従者がすべて女性という伝説もわからないではないのだ」

「つまりわたくしたちはバートランド様の魔力タンクのようなものなのでしょうか?」

 この疑問もわからないではない。


「では逆を試してみてはどうだろうか」

「逆、というのは?」

 タリッサがその言葉に食いついた。

「つまり“虹の勇者”がアイテムを持って、従者が魔法を使ってみるのだ。これなら魔力が一方通行なのか相互通行なのかはっきりするはずだが」


「確かにそうだな。それではクラウフォーゼに〈光の矢〉を撃ってもらおうか。魔力が不安定なスキルトでは威力が増したかどうか判断しづらい。四人の中で最も魔力が安定しているのはクラウフォーゼだからな」

「かしこまりました。それではバートランド様、アイテムを持っていただけますか?」


 赤の導師からアイテムを受け取ったバートランドは、それを軽く振ってみる。

「持ち方とかイメージとか、なにかコツはありますか?」

「いや、ただ持って魔法を発動するだけじゃ。だからクラウフォーゼ嬢が魔法を発動するのをただ見ていればよい」


「わかりました。ではバートランド様、〈光の矢〉を撃ちますわね」

 バートランドはアイテムの紋章を確認してそれを手で包み込んだ。


「僕としてまずは白のイメージをせずにやってみようかな。意識していなくても強まるのか確認したいからね」

 導師たちは一様に頷いた。


「じゃあクラウフォーゼ、まずはそのまま〈光の矢〉を撃ってみて」

「了解しましたわ。ではまいります」

 クラウフォーゼの白の魔力が高まり、〈光の矢〉が窓の外へと打ち出された。

 そのさまを見ていたバートランドたちは皆、驚いた。

「わたくしの意図よりも強い魔法になりましたわ。魔力を高めるときに底上げされているような感覚です」


「うん、そのとおりじゃ。わしが〈火の矢〉を撃ったときも同じような感覚じゃったからな」

「バートランド様はいかがでしたか?」

 この不思議な感覚をなんと伝えればよいのだろうか。判断に迷った。

「そうだな……。少し体が疲れたような気がするよ。でも運動したというより、ストレスがかかっているような感じ……かな?」

「とおっしゃると、あまり推奨されない使用方法ということでしょうか?」


 青の導師が答えた。

「いや、おそらくだがこの使い方も正しいはずだ。“虹の勇者”の専用アイテムだとすれば、自身の強化だけでは駄目だ。従者の強化もできなければ、長期間戦闘を続けられないはずだからな」


「それだとバートランドへの負担が強まらないか? バートランドが私たちの魔力タンクになるだけりような気もするのだが……」


 ラナのセリフで学園長はひとつ考えた。

「おそらくだが、“虹の勇者”と従者の関係とは、双方が互いの魔力タンクになることで成立しているのかもしれないな」


「互いに魔力タンクに……」

 タリッサが不安げな表情を浮かべている。


「それでは、このアイテムはそれほど意味をなさないのでしょうか。これだと単に魔力の貸し借りができるというだけですよね?」



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