第26話 虹の剣
謎の紋章を持つこのアイテムはどこまで役に立つのだろうか。
“虹の勇者”専用アイテムなのであれば、他の色とも同様な性能を有していると見てよい。
「バートランドの考えどおり、このアイテムは青、赤、緑でも同様の性能を持っている。“虹の勇者”が男である以上、従者が全員女と決まっているのもそのためと見てよかろう」
“虹の勇者”と従者とで魔力を貸し借りできるアイテム。しかも異性同士でなければ効果を発揮しないという。
そして“虹の勇者”は男性と決まっており、その従者も女性と定まっている。なぜなのか。その答えがこのアイテムなのではないだろうか。
では複数の魔力を用いるときはどうなのだろうか。どの色が強まって、どの色が弱まるのか。不思議な点は多い。
すると学園長室の扉がノックされた。学園長が許可を出し入ってきたのは緑の導師と白の導師だった。これで学園を代表する四人の導師が一堂に会した。
「話を続けようか」
ここでラナが気になったことがあるようだ。
「少しすまない。異なる色の魔法を同時に発動させた場合はどうなるのだ? バートランドは二倍吸われるだけなのか、二色、三色も同時に強まるのか。逆にバートランドが複数の魔法を同時発動したときの、私たちにかかる変化とはどんなものなのだ?」
青の導師がラナを見据えた。
「今のところわかっておりません、ラナ様。第一、複数の色を同時に操れるのは“虹の勇者”のみです。私たち単色の魔法使いでは、再現のしようもありませんかなら」
確かにそのとおりだ。複数の色を操れるのであれば、その者も“虹の勇者”の候補になっていて不思議はない。
「そのあたりも、バートランドが手探りで気づいていかなければならんだろう。鑑定を請け負っておいて、こんなことを言うのもなんなのだがな」
聞いていた白の導師が提案する。
「破壊系の魔法を三つも発動させるのはここではやめたほうがいいだろう。試したいのなら白の〈回復〉と青の〈湧き水〉、緑の〈生長〉あたりならどうだろうか」
「なるほどな。それなら室内を壊されずに済みますな」
緑の導師が同意した。
「さっき〈火の矢〉も使っているんじゃけどなあ」
頬を掻いて赤の導師が話を継いだ。
「まあ気兼ねせずにとなると、スキルトはもう少し安定してほしいところじゃからな。三色で試すなら、青、緑、白がよかろうて」
「それでは〈回復〉と〈湧き水〉と〈生長〉を同時にかけてみましょう」
開いた窓から手を伸ばして桜の枝を折った。そして〈湧き水〉を出しても外へ排出できる態勢をとった。
「ではやってみます」
バートランドはアイテムを手に持って三つの魔法のイメージを瞬時に構築する。
するとタリッサ、ラナ、クラウフォーゼが彼に吸い寄せられるように近寄っていく。すると目の前でとんでもない事態が起こった。
「おや? どうやら腰痛が軽くなったようだな」
「私は目が冴えてきたようですな」
学園長は腰をさすり、青の導師はメガネをとって目を瞬かせている。
桜の小枝は大きな枝にまで生長し、湧き水は滝のような豊富な水量で窓の下へと流れていく。
「よし、バートランド、そのへんでいいじゃろう」
赤の導師の声で我に返った。ただちに発動を解除すると、彼に触れていた三人が顔を見合わせている。
「タリッサ、ラナ様、クラウフォーゼ嬢、体調はどうかな?」
「そうですね。魔法を使ったような疲れは若干感じますが、それほど強くはありません」
「わたくしも、とくに変わったところはありませんわ」
「これは……」
右手でバートランドに触れていたラナは、なにかに気づいたようだ。
「ラナ様、いかがなさいましたか?」
「どうも私の魔力が底上げされている感覚があるのだが……」
「魔力が底上げ?」
タリッサとクラウフォーゼは再びバートランドに手を添えた。
「確かに、わたくしの魔力も底上げされているように感じますわ」
「私も。もしかしてこれがそのアイテムの真の力なのかな?」
その様子を見ていたスキルトもバートランドに触れようとする。
「これ、スキルト。ここから先の検証は部室に戻ってからじゃ。いつまでも学園長室を占拠されたら、彼の仕事も進まんぞ」
「わかりました、老師」
青の導師が続けた。
「単色の魔法使いからすれば、“虹の魔法”使いは不正に強さを増しているように映っているはずだ。それが神からの授かりものなのか、悪魔のいたずらなのか。誰にもわからない。だが、“終末の日”が来れば、人々は“虹の勇者”を頼る以外にないのだ。バートランドにはそれだけの使命を帯びている自覚を持ってほしい。ただし他言は無用だ。“終末の日”は伝承の中にしか存在していないのだからな」
「まあ“終末の日”という単語だけでは誰も反応しないだろう。ただ、その単語を考えるとなにかと詮索されるやもしれん。ゆえに他言無用なのだ」
学園長はバートランドたちに言い含めた。
「ちなみにそのアイテムの紋章の下には、失われた古代文字で“虹の剣”と書かれていることも判明している」
「失われた古代文字が読めるのですか?」
「そうだ。この世には古代文字を生涯研究している者がおるのだ。その者が“虹の剣”と読んだことで、これが“虹の勇者”の持ち物であることが確定したといってよい」
「一度お会いしたいですね」
バートランドは素直な感想を抱いた。
「少し気難しくて人付き合いを好まんのだ。われわれも直接会っているわけではない。遠方と連絡をとる手段を用いて依頼したまでだ」
「さようですか。これからの頼もしい味方になってくれそうですのに」
タリッサが残念がる。
「まあ、遺跡探索の旅を続ければそのうち会えるだろう。その者も“終末の日”について研究しておることだしの」
「であれば、世界が終わる前までにはお会いしておきたいところですわね。わたくしたちも“終末の日”を解決するという目的は同じくしておりますので」
クラウフォーゼの希望にはバートランドも同意する。“終末の日”が近いのであれば、それを研究している者の知見は役に立つはずだ。
「まあ“虹の剣”とはいえ、完全に呪いのアイテムでないとは限らない。“虹の勇者”だけに作用する呪いかもしれないからな。もし戦場で暴走でもしたら“虹の魔法”と“虹の勇者”を失いかねないのだ。だからバートランドに預けはするが、なにか起こった場合はすぐに学園へ戻ってきてほしい」
学園長が念を押した。
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