第27話 ひとりの戦い

「さて、君たちはすでに卒業が決まっている。そこで遺跡探索者としての門出を祝う席を設けたいのだが」

「そのような立派なことはなさらないほうがよろしいかと存じますが」

 緑の導師が学園長に指摘した。


「ただでさえバートランドは“虹の魔法”使いであって、甚だ不公平だと在校生から見られております。このうえ盛大に送り出そうものなら、彼らの反発を抑えるのは困難でしょう」

「しかし卒業の式自体をしっかりと執り行わないことには、正式な遺跡探索者として関係者の協力を得づらかろう」


 バートランドが口を開いた。

「僕としては、遺跡探索業がうまく進めばそれに越したことはないのですが。やはりサポートがないと探索もうまく進まないだろうとも想定されますよね。在校生の反発を抑える手段をなにか考えないとなりませんが……」


 “虹の魔力”持ちとしてバートランドは学園で優遇されてきた。

 今になれば“虹の勇者”が“終末の日”に立ち向かうための英才教育だったと、このパーティーのメンバーはわかっている。しかし多くの学生には知らされていないのだから納得できようはずもない。

 しかもただでさえ複数の魔法適性を持つ“異端”であるのに、各魔法の最優秀学生を率いているのだから、戦闘試験で優勝して当たり前ではないか。

 そう思われているのだから、現時点で在校生の協力を得るのは困難である。


「バートランドの卒業については、在校生の有力なパーティーから異議が申し立てられております。それほど強いとは思えない人物が卒業するのなら、われらのほうが先に卒業してしかるべきだ、とのことですね」

「ではバートランドくんひとりで彼らの相手をさせようか。さすれば彼らも納得できるだろう。ちょうど“虹の剣”を得たのだ。実戦演習としては申し分なかろう」


 確かに“虹の剣”であれば周囲から魔力を借りてこられるのだから、多くの学生が観戦する試合では事実上無敵に近い。

 しかし、それすらも在校生には面白くないかもしれなかった。


「それでは、バートランドくんの卒業を万人に認めさせるために、単独での試合をしてもらおう。ただ、五対一で戦ってバートランドが負けた場合、果たして公平な戦いの結果と受け止められるだろうか」

「バートランドが確実に勝ちながらも、在校生たちが納得のいく戦い方をしなければならないわけか……」

 四人の導師と学園長は苦慮した。そのような状況を生み出せる戦場を考えなければならないからだ。


「それであれば」

 “姫騎士”ラナがひとつの案を示した。




 バートランドと戦いたい在校生のパーティーを募り、結果としてその中から上位三組が手合わせすることとなった。ただしバートランドの陣営では彼の従者である四名が戦闘に参加しない形で後方に配置される。


「すまんな、バートランドくん。君の実力を疑うわけではないが、単身で五人パーティーと戦って勝ってみせてくれたまえ。そうすれば在校生はひとり残らず君の実力を知り、協力を惜しまぬことだろう」

 試験場の控室で学園長が話しかけている。


「三組のパーティーに勝つには、手加減をしていられません。また魔力が尽きる前に倒し終えなければなりません。幸い“虹の剣”を使えるので、僕の魔力は底上げされますけど」

「相手の了解は得ておる。ぜひ“虹の勇者”の戦いぶりを在校生に見せつけてやるのだ。“終末の日”までに全員が君に助力したくなるようにしなければならないからな」

 それだけ今日の戦いは重要な意味を持っている。


「まあ今はまだ三つ同時発動までしかできませんから、どこまで戦えるかは正直わかりません。ですが、全力を出せたら勝機は見いだせるはずです。“終末の日”の予行演習だと思えば、戦意も湧いてこようというものです」

「すべての責任をバートランドくんに背負わせるようで気が引けるのだがな……」

「いえ、“終末の日”が避けえないものなら、僕が“虹の勇者”として実力を蓄えるほかありません」


 学園長と会話を続けていると、控室の扉が叩かれた。

「第一試合が始まります。お支度が済み次第試験場へお越しくださいませ」


「では、行ってまいります。学園長も観戦なさるのですよね。恥ずかしくない戦果を挙げられるよう努力します」

 ひとつ敬礼をして、バートランドは控室から試験場へと向かった。




 後方でなにもせず、ただバートランドの戦いぶりを見ていたタリッサ、スキルト、ラナ、クラウフォーゼの四名は、彼が破竹の快進撃を続けるさまを見つめていた。

「バートってあんなに強かったんだ。ちょっと他の人より強い程度だと思っていたんだけど」

「ひとりで四色を操れるのだから、ひとりとはいえ四人並みの戦いができるはず。同時に使える魔法が三色だとしても、三人に比肩する実力はあるからな。戦いの外から見て初めてわかることもある」

 スキルトの言葉をラナが継いだ。


「攻勢に出るときは青、赤、緑。守勢に回って立て直すときは白と使い分けていらっしゃいますわね。あれなら相当な手練でないかぎり敗れる心配はないでしょう」

 クラウフォーゼはタリッサに言い含めた。

「あれがバートランドの真の姿なのね。子どもの頃に遊んでいたときと同じわけがないけど、ずいぶんと遠くへ離されていたことに気づかされる……」


「まあこの第二戦もバートランドが圧倒しているからな。やはり“虹の剣”がとんでもないアイテムであることに、疑う余地はないな」

 “虹の剣”の力添えも確かにある。だが、一戦ごといや魔法を発動するごとに、バートランドは強くなっていた。三色の魔力を実戦で操ることは、それだけで要領がよくなり、さらなる戦い方を身につける良い機会となる。


「ですが本当に、戦うごとに強くなっていらっしゃるのがよくわかりますわね」

「それが“虹の剣”の実力なのかもしれんな。実戦での経験値を何倍にも増して与えてくれる。卑怯なアイテムと言えなくもないが、あれを私たち単色の魔法使いが用いてもああはなるまい」

 ラナの明哲な分析が示された。


「世界が“終末の日”を拒む力。それを形にしたものが、あの“虹の剣”なのかもしれませんわね」

「ああ、そのような力だろうな」

 クラウフォーゼの感想に、ラナは端的に答えた。



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