第14話 初のお宝発見?

 野営を二度した一行は、探索する遺跡までたどり着いた。

 道すがら、三つの魔法の同時発動について取り組んだが、やはり思いつきと実践には大きな開きがある。頭で理解することと体が使えることはイコールではないのだ。

 全員が難しいという感想を抱いていた。


「まあ三つ同時なんてそう簡単にできることではありませんからね」

 案内人の教員はなにごともないような表情を浮かべている。

「先生はできるんですよね、当然」

 青の短髪を揺らしてタリッサが尋ねた。


「当然ですね。できませんよ、私は」

「そうそう……って、できないんかーい!」

 スキルトが鋭くツッコんだ。


「三つ同時発動なんて導師でもなければできませんよ。私がただの教員なのも、三つもできないからですしね」

「逆にいえば、導師は皆三つ同時発動ができるわけか」

「そういうことになりますわね、ラナ様」

 クラウフォーゼが肯いた。


 今日は遺跡に到達するとのことで、朝から魔力を温存していたので、特訓は控えていた。

 敵は強くなくても数がいるとのことなので、まずは遺跡の外へと敵を誘き出さなければならない。全員麻衣をまとって弓矢を携えている。


「できるだけ多くの敵を外へ出そうと思ったら、煙でいぶすのが一番です。まずは焚き火に使う乾いた枝を拾ってきてください。バートランドは私と煙を出すブナの木の生木を伐採しましょうか」

 案内人はさりげなくバートランドにアピールしているようにも見えてくる。それに気づいたスキルトは不平を鳴らす。

「あ、ずるーい! 私も生木を探したいー!」


 豊かな金色の髪をなびかせていたクラウフォーゼは髪を丁寧に結わえていって兜をかぶった。

「生木は重いですからね。男性の力を借りないと持ってこられませんわよ、スキルト。それとも重い木を担いで往復できますか?」

 なだめるような彼女の声に多少反感を覚えもしたが、すぐに気を取り直したスキルトは、さっさと任務を達成して学園に帰ることに意識が向いたようだ。


「まあこんなところでくすぶっていても任務は達成できないし。とっとと片付けちゃおう! それじゃあ皆で枝拾いに出発!」




「まさか百体以上も出てくるとは思わなかったですわね」

 クラウフォーゼは構えた弓を下ろした。

 ほとんどの魔物は矢一本で倒れるほどだから強くはないようだ。これなら確かに弓矢はいくつあってもよかったわけか。


「それでは中を探索しましょう。皆さん竿を持ってください。明かりは私が持ちますので。竿で気になるところを叩いたりつついたりしてみてください。なにか仕掛けが発動するかもしれませんよ」


「それって罠を発動させるってことですわよね?」

「クラウフォーゼ嬢、そのとおりです。どこにどんな仕掛けがあるかわからないので、長い竿で先に発動させてしまおうってわけです。逃げ道も確保できますからね」

「まあ中の構造はいたってシンプルです。中央の通路に左右の通路が何本が交差して、そこに部屋の扉が構えられています。ひと部屋ずつ確認していきましょう」


 そうしてひと部屋ずつ鍵を開けては中を覗き、魔物がいないのを確認してから部屋の中をくまなく探してみる。

 出立前から聞いてはいたが、すでに先遣隊があらかた探し終えている遺跡である。さまざまなものを手にとったり動かしたりしても隠し部屋ひとつ出てこない。


「ここまでまったくなにもない遺跡も珍しいのではないか」

 ラナのつぶやきもわからないではない。

 結局最後の奥の間に入ってもめぼしいものはなにもなかった。トラップすら仕掛けられていないのだから拍子抜けもよいところだ。


「先遣隊は学園の精鋭部隊ですからね。すべてのトラップを解除しておいたのでしょう。彼らの話ではトラップこそたくさん仕掛けられていたが、アイテムはなにひとつ見つからなかったそうです」


 しかし、こうもなにもないのはなにかおかしい。

 表立って置いていないとしても、なにかアイテムを守るためでなければ、そもそも遺跡を構える必要がないのだ。


 最近になって発見された遺跡だから、盗人に奪われた可能性は低い。

 奥の間の突き当たりの壁を見てみると、なにやらうっすらと紋章のようなものが描かれている。それはこの遺跡の見取り図のようにも見えるが、この絵にはなにがしかの意味があるのだろうか。

 経験豊かな先遣隊がこれを見て遺跡を探したとしてもなにも見つからなかったところを考えると、これは誰かになにかを伝えようとする、いわば“手紙”のようなものなのかもしれない。

 そう思いながらバートランドがその紋章をずっと眺めていると、なにやら頭に映像が浮かんできた。


「これはいったい……」

 タリッサは彼が壁に向かって独りごとを言ったように見えたようだ。声をかけようとするところを案内人に制される。

 この見慣れぬ紋章になにか秘密があるのだろうか。

 五芒星を模し、その頂点には丸い球のようなものが書かれている。


 するとバートランドはふらふらと奥の間を出ていった。

 皆でその後を追っていくが、あるところで立ち止まり、手に持つ竿で灯された明かりに隠された通路の上部をつついている。

 なぜそんなところを探しているのだろうか。誰もが顔を見合わせていると、カチッというなにかのスイッチが入る音が聞こえてきた。すると一面の壁がせり上がっていく。そして現れた新たな壁の中央に、筒状のアイテムが現れた。


「こんなところに隠してあったなんて……。先遣隊がここに気づかないはずはないのだけど……。あ、ちょっと待ってバートランド! どんなアイテムなのか鑑定が済むまで触っちゃ駄目よ!」


 その言葉が耳に入っていないように、バートランドは手を伸ばして左手で筒を握ってみた。

「なんだろう。吸い付くような感触だけど……」


「吸い付く? もしかして呪いのアイテムかもしれないですわ。バートランド様、そのアイテムをこちらへお向けください。今すぐ呪いを払いますので」


 〈解呪〉の魔法をかけようとの意図だった。しかし魔法を使ってもなにも起こらなかった。


「どうやら呪いのアイテムではないようね。でも素性がわからない以上、鑑定が終わるまでそのアイテムは学園側が預かります。なぜ先遣隊が発見できなかったのかも報告を確認して調べてみないことにはわかりませんからね」


 バートランドは頷くとアイテムを案内人に託した。するとアイテムを隠していた壁がガラガラと金属音を立てながら下りてきて、一面を完全に隠してしまった。


 バートランドたちの最初の遺跡探索は、ひとつの成果を残して終了した。



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