第15話 鑑定と紋章
来た道を引き返して、バートランド一行は学園都市へと戻ってきた。
ラナは愛馬から、他の四人は馬車から下りて、御者を務めた案内人の教員がマジックアイテムを入れた木箱を携えている。それを掲げて先導する教員の後を五人はゆったりと歩いていく。
途中学生とすれ違ったが、距離をとられてねぎらいの言葉ひとつもなかった。一週間学園にいなかったのだから、遺跡探索に行ったことは言わずもがなだろう。
案内人の教員が職員室前で立ち止まって振り返る。
「このアイテムは鑑定士の資格を持つ青の導師様に預けて調べてもらいます。バートランドが持っても手放せたことを考えると、呪われてはいないようですが。しかしなにか強力な魔法が発動しそうな兆候もありませんしね。素性がわからないと皆も不安だと思うから。そこで皆に相談なんだけど」
なにを切り出されるのだろうか。
「このアイテム、学園で買い取らせてもらえないかしら。そのほうがじっくりと時間をかけて調べられるのだけど」
「ちなみにおいくらくらいですか?」
商家の出のタリッサが価値を聞き出そうとしている。
「そうねえ。まあ導師様方の認識次第なんだけど、なにか極大魔法が封じされているわけでもなさそうだし、役に立ちそうな魔法もかかっていないようだし。よくて金貨三枚くらいかな?」
「金貨三枚、ですか……」
バートランドが後頭部を掻いている。
「なにかおいしいものでも食べに行くのです!金貨三枚なら三日間は食べ放題!」
浮かれているスキルトを見やりながら、彼はどうにも頓着する自分に気がついたようだ。
「いえ、できれば所有権は手放しません。プロの先遣隊でも探し出せず、僕だけが見つけられたということは、おそらくこのアイテムを僕に使ってほしいのだと思います。誰の思し召しかはわかりませんが……」
「“虹の勇者”に関するもの、ということもありうるわけね」
教員はひとつ頷くと、背負っていたカバンを下ろして中から紙を取り出した。
「それじゃあこれにサインしてもらえるかしら。このアイテムを最長一週間学園に貸与する書類なんだけど」
渡された書類を読むと「委託許可証」と書いてある。学園長の名前とサインが書かれていることから、あらかじめ用意されていたのだろう。
まあなにもないと思っていた遺跡から思わぬアイテムが見つかったのだから、予想外の事態であることには変わりないのだが。
バートランドがサインをし終えると、では私もと言ってラナもサインした。これで皇族との契約となって許可証に強制力が発生する。
「では今回の遺跡探索はここまでです。解散とします」
バートランドたちは教員にひとつ敬礼すると、彼女は室内へと入っていった。
「でもお手柄には違いないよ。先遣隊が見つけられなかったお宝を発見したんだから!」
タリッサはスキルトと手を取り合いながらはしゃいでいる。確かにプロの先遣隊が見落としたものを発見できたのは誇れることではあるのだが。
「あのときのバートランド様は、なにかに導かれるようにあそこへ一直線に進んでいきました。もしかしてアイテムの声でも聞こえましたか?」
不思議な内容をクラウフォーゼが口にした。だがバートランドにはその問いかけがやけにしっくりきたようだ。
「あの紋章を見ていたら、頭にイメージが湧いてきたんだよ。あの場所へ行けばなにかあるって……。あとは手当たり次第だったから、導かれたのかなんなのか。皆はあの紋章を見てなにも感じなかったのかな?」
「あたしはなにも感じなかったけど。あの紋章がなにを意味しているのかもわかんない」
スキルトの後にタリッサが告げる。
「私もとくには。あの紋章は初めて見るけど、ただの五芒星って感じかな? なにか意味のある図形かもしれないけど」
「五芒星か……。ということは聖なる魔力と相性がいいわけだけど……」
バートランドはふと思いついたことを口走った。
「神殿の代表として口にするのであれば、あの紋章は儀式に使われるものではありませんわ。少なくともわたくしが知っているものにあの図形はございませんわ。もっとも、失われた魔法や禁呪に関するものかもしれませんが……」
ラナは緑の一族である皇室出身だけに、なにか情報を持っているかもしれない。
「だから案内人もあのアイテムを詳しく鑑定しようとしているわけか。もし禁呪がかかわっていたら、バートランドにどんな反動が来るのかわからんからな」
「ということは、皇族でもあの紋章は伝えられていないのかな?」
「あんな図形は初めて見る。先遣隊も見落としていたようだから、おそらく国中で知っている者は皆無だろう」
そうなると、なおさら伝説の“虹の勇者”にかかわるものである可能性が高くなる。
もし“虹の勇者”に関係があるとして、バートランドがあのアイテムを手にとっても「なにも発動しなかった」のはなぜか。
まだアイテムに認められるだけの実力が備わっていないのかもしれない。本来の“虹の勇者”とは、格段に優秀な存在なのだろうか。
ただ“虹の魔力”を持つだけでなれるものでもないのだろう。今よりも格段に実力を上げなければ、単に「資質がある」程度で終わりかねない。
バートランドが真に“虹の勇者”となるには、あとどれほど強くなればよいのだろうか。すべての色を極めた先に、なにが待ち受けているのか。
学園側の配慮を考えれば、おそらくすべての色を使いこなせなければならないだろうことは今でもわかる。
そして魔力が別々の樽に入っているのではなく、ひとつの“虹の魔力”の樽ですべての色を引き出せるようにする。
それが異なる色の魔法の同時発動や瞬時の切り替えにもつながるはずだ。
アイテムの鑑定が終わる一週間。それまでにどれだけ魔力を高め、使いこなせるようになるか。
赤の導師が皆に課した課題は、単に「低出力魔法の持続」のみだった。
そこから同時発動や瞬時の切り替えを習得するべく、彼のパーティーは自らに課してきた。
そこまで見通して赤の導師は課題を出したのだろうか。
「それではこれからどうする、バートランド?」
ラナの問いかけで我に返ったバートランドは、ちょっと考えたしぐさをするも、学生としては当たり前のことを述べた。
「まあ今でも学生であることに変わりはないから、とりあえず皆はそれぞれの魔法の講義は受けよう。そこで各々鍛えていけば卒業してからもじゅうぶん戦力になるはずだ。僕はやらなければならないことが山積みだからね。まずはそれを達成してから授業に復帰することにするよ」
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