第32話 追跡と魔法研究【第四章完】
先行するバートランドに追いつくべく、四台の馬車と一頭の騎馬が全速力で飛ばしている。その中でもタリッサとスキルト、クラウフォーゼが魔法の研究を続けていた。
「〈泡風呂〉を作ろうよ! ラナが参加できなくても研究できる魔法っていったら今のところあれだけだし」
「ですが、ここで作ると後続の馬車が滑って転倒しかねませんわ。宿に着いてから試しましょう」
スキルトの提案にクラウフォーゼが口を挟む。
「でもただ移動しているだけじゃあ意味がないし」
「それじゃあスキルト。クラウフォーゼと赤と白の混合魔法を試してみたらどうかな? 私の青は主に水を出す魔法だから後続に影響が出るけど、赤と白だったらなにか出来上がるんじゃないかと思うんだけど」
「そういえば、実体のない赤と白を混ぜたらどんな魔法が出来上がるのか。試したことがありませんわね。赤は白を剋すとも言いますからね」
「どんな変化が起こっているのかもわからないんじゃ、試しても無駄になるからね。調合レシピでも赤と白の組み合わせってまったくないし」
〈加熱〉と〈回復〉を組み合わせてなにか生み出せないものか。〈たいまつ〉と〈昼白光〉を組み合わせてなにか生み出せないものか。
ひとつずつ試していくほかない。
「それではなにがあってもよいように、幌は閉めておきましょう。タリッサ、そちらの幌を閉じてください。私はこちらを閉じますから」
そういうとクラウフォーゼは器用に幌の紐を結んでいって閉じていった。
「では、まず赤の〈たいまつ〉と白の〈昼白光〉を組み合わせを試しましょう」
スキルトが〈たいまつ〉を発動し、その炎に向かってクラウフォーゼが〈昼白光〉を注ぎ込んでいく。すると〈たいまつ〉の明かりが真夏の太陽のごとくまばゆく光り輝いた。あまりのまぶしさに三人は目がくらんでしまう。
「クラウ、魔法を終えて! なにがなんだかわからない!」
「は、はい、わかりましたわ!」
慌てながらクラウフォーゼが〈昼白光〉を切った。するとスキルトの〈たいまつ〉の明かりだけが残ったのだが、三人とも目がくらんで現状を判断できないでいた。
「タリッサ、スキルト、目は見えていますか?」
「いえ、全然……」
「真っ暗でまったく見えないよ!」
「私もですので、それでは〈広域治癒〉をかけますわね。」
クラウフォーゼの魔法が発動し、程なく三人の視力が戻った。
「ものすごい光でしたが、これがなんの役に立つのはわかりませんわね。ですが光が激しく強まるのは確かなようです。念のため幌を閉じていてよかったですわ。もしこの光が漏れていたら、後続の馬が驚いて危険な状態になっていたかもしれませんから」
名前を付けるとしたらなにになるだろうか。
「この魔法は〈太陽光〉としましょうか。〈目くらまし〉というのもよいとは思うのですけど、単なる目くらまし以上の効果が期待できるかもしれませんので」
〈太陽光〉は極限の明かりが発動するため、黒の魔法に対するとき、単に白の魔法で立ち向かうよりも効果的だといえるだろう。
「これなら魔物を弱体化できるかもしれないね。スキルト、クラウフォーゼ、幸先いいわね。じゃあすぐにレシピを書いておこう」
タリッサが赤と白の魔法の種類と配合のバランスを控えていく。
「じゃあ次は〈加熱〉と〈回復〉だけど、これはさっきのように強い光が出るようなものじゃないから、安心して使えそうだね」
「えっと、クラウフォーゼがまず〈回復〉をかけて、そこにスキルトがじょじょに〈加熱〉を加えていったらよさそうね。触れないほどの高熱じゃあどんなに〈回復〉してもやけどしかねないから」
「わかった、タリッサ。じゃあクラウ、いってみよう!」
「それじゃあタリッサ、疲れを癒やしたいところはありますか?」
その言葉で体をチェックしてみる。馬車に揺られづつけて腰が少し重いように感じられた。
「腰が重いかな」
「それでは、うつ伏せになってください」
タリッサが荷台にうつ伏せるとクラウフォーゼがその腰に手を当てた。
「ではまず〈回復〉から」
そういうと腰の重さがじんわりととれていくような気がした。だが、始めたばかりだから完全に軽くなったかといえばそれほどでもない。
「それではスキルト、〈加熱〉をお願い致しますわ。低温から徐々に温度を上げてください」
「わかった。じゃあタリッサ、いっくよ〜!」
クラウフォーゼが手をかざして〈回復〉を発動している腰部に、スキルトの〈加熱〉が加えられていく。じわじわと温まって血流がよくなっていくのがわかる。
「うわあ、これは極楽ねえ。腰の重さがすっきりしてきた!」
「どんな感覚がありますか?」
「そうねえ。お風呂に入っているときのような感じかなあ。は〜極楽極楽」
「それじゃあ魔法を解除しますわね。そのときどんな反動が来るか。状態の変化を教えてくださいませ」
腰に加えられた熱がじょじょに引いていく。それでも腰の軽さは変わらなかった。
「反動はまったくないかな。腰も軽くなったままだし、〈回復〉のサポートにはいいんじゃないかな?」
この魔法にも名前を付けることになるが、まさか〈お風呂〉と書くわけにもいかない。
「クラウ、なんかいい案ない?」
「そうですわねえ。現在神殿で、お湯に浸かった人の疲れた箇所を触って〈回復〉をかけることがあるのですわ。それを温熱療法っていうのですけど」
「〈温熱療法〉というのも品のない名前よね。〈温癒〉なんてどうかな?」
「〈温癒〉ですか。適切な名前だと存じますわ」
「じゃあ〈温癒〉で配合レシピを記録しておくね」
タリッサが二枚目の配合レシピを書き加えていく。
「皆、ちょっといいか?」
幌の外からラナの声がする。幌を開くと日が高く、お昼どきになっていたらしい。暗い幌の中でいろいろ試している間にもうそんな時間になったのか。
四台の馬車は宿場に入り、四人と三組の在校生パーティーが食事処へ向かって歩いていく。
しかしバートランドはお昼を軽食で済ませているらしいから、そう長く滞在することもできない。
バートランドは旅立ってから四日目に街道から外れて移動することになっている。案内人からは、水源の確保のために川に沿って進むよう提案されており、おそらくそのとおりに進むと見られる。
単独行だから、馬車の入り込めるギリギリで馬車を降りて野営し、目的地である遺跡へと強行軍をすることとなるだろう。
そこから先、バートランドは馬車を置いた場所に戻ってくるまで一睡もせずに行軍し続けるほかないからだ。
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